作品目録

ローマへの道

 

初出誌
「プチフラワー」1990年1月号~9月号
PART 1:1990年1月号(1990.1.1) p267~306(40p)
PART 2:1990年3月号(1990.3.1) p89~128(40p)
PART 3:1990年5月号(1990.5.1) p7~46(40p)
PART 4:1990年7月号(1990.7.1) p187~226(40p)
PART 5:1990年9月号(1990.9.1) p137~176(40p)
登場人物
マリオ・キリコ:ドミ・ド・リールのダンサー。ブラッセル出身。20歳。
ラファエラ・ロッティ(ラエラ):ドミ・ド・リールのダンサー。シェルブール出身。20歳。
ディディ・アンデルセン:ドミ・ド・リールのダンサー。19歳。
シルビア・マレー:ドミ・ド・リールの長身の女性ダンサー。リヨンでバレエ学校の教師をしていた。24歳。
レヴィ:ドミ・ド・リールのダンサー。王子様タイプ。マリオに部屋を貸す。
ユーナ:マリオの姉。
プゥー:マリオの妹。
シモーヌ:マリオの叔母。育ての母。
アンナ:マリオの生母。
アントニオ・ジュセロ:マリオの父親。
あらすじ
マリオはローマ生まれ。4歳のときに両親に死なれ、おば夫婦に引き取られる。ローマにいた頃のことは幼すぎて記憶になかった。おば夫婦がベルギーに転居し、5歳の頃からバレエを始め、兵役を終えてパリの名門バレエ団ドミ・ド・リールの入団テストに合格する。
マリオは同じ時期に入団したラエラと親しくなる。ラエラもローマ出身で13歳までおり、両親の離婚によりフランスに引っ越してきた。イタリア語の方が得意なため、マリオと気軽に話せるらしい。
公演中に育ての母である叔母が死んだと電話があり、公演終了後マリオはブラッセルに帰郷する。すると、叔父から死んだと聞かされていた母親がローマで生きていると告白される。母は父親を殺し、そのせいで叔母一家はローマから引っ越さなければならなかった。失明した父親を保険金目当てで殺したと新聞は報道した。叔父はあれは正当防衛だったというが、マリオは傷つき、パリに戻る。
マリオはラエラと暮らしはじめる。バレエとラエラに集中して母親のことは考えないように努めていたが、ラエラが大きな役に抜擢され、自分は取り残されたように感じる。ある日マリオはドミ・ド・リールに自分で創作した作品を見せたが「自分の心の秘密を知ることだ」と言われる。
2年目になり、ディディやラエラが注目を浴びるのに対し、周囲の評価が上がらないマリオは焦燥感に駆られる。マリオはラエラとケンカし暴力をふるい出す。暴力が自分の子供の頃の体験のせいだと考えたマリオはそれを「ローマの呪い」と名付け、必死で逃れようと努力する。
ところが、ディディが特訓をしてうまくなってきたことや、自分がドミ・ド・リールの前で失敗したせいで、出て行くというラエラを殺しかけてしまう。自分が人を殺したような夢を何度も見ていたが、ついに実行に移したと思いこむ。
部屋を飛び出して街をさまよっているところをレヴィにつかまり、事情を話す。部屋に戻るとラエラは息を吹き返している。マリオは「人生において愛を学んでこなかった」とラエラに言われる。レヴィは自分の部屋にラエラを連れて行き、マリオから聞いた両親の事件についてラエラに話す。
マリオはベルギーにいる叔父に電話をかけ、生母の住所を聞き出す。マリオはついに「ローマにつかまった」とローマへ向かう。果たして生母には会えるのか?会ってどうするのか…?
コメント
「訪問者」と同じレベルで、私はこの作品に胸打たれます。「訪問者」は小さい男の子の話だからなのですが、「ローマへの道」は萩尾先生には珍しい「母親の無償の愛」がテーマだからなのでしょう。
アンナが夫を殺してしまったのは息子のためでした。それは事故も同然だったのに、血のついた麺棒や床をふいたり、転んだなどと嘘をついてしまい、正当防衛であることを主張することすら出来ませんでした。それは殺したことを隠そうとしたのではなく、殺したとは信じられなかったからだったのですが、その愚かさを責めることはできません。その後、自分を死んだことにして欲しいと妹に頼んだのは、現場を見たショックのため何も食べられなくなってしまった息子のために、自分を罰することにしたのだと思います。
マリオが「人を麺棒でたたいた感触がある」というのは母親をなぐる父親をなぐったものでした。幼いマリオもまた母を守ろうとしたのでしょう。自分が殺したわけではないこと、母親が自分を守ろうとして父親を殺したこと、自分が疎まれて母親から叔母に引き渡されたわけではないこと、そういった事情を理解し、ローマの呪いから解放されたマリオがバレエもラエラも取り戻せてすっきりとした顔になりました。
萩尾先生は人がドメスティック・バイオレンスに走る理由、そこから逃れる方法、そういったものについて研究されたのだと思います。この作品が先々「残酷な神が支配する」つながっていくのかどうかは不明ですが、私には一つの流れだと思えます。
この作品でアンナが金髪であることが一つのキーになっています。叔父一家が全員黒髪であるのに対し、マリオだけが金髪です。そしてラエラも豊かな黒髪のローマ出身者です。ラエラはマリオにとってローマへの窓口でした。
ドイツではゲーテの頃より南(イタリア)の明るさへの憧れがありました。フランスではどうでしょう?フランスは北部と南部でかなり気候が違いますので、みな南仏へバカンスへ行くのはその明るさへの憧憬があるのかもしれません。

2010.7.22

収録書籍
ローマへの道

ローマへの道(プチフラワーコミックス) 小学館 1990.10

ローマへの道


ローマへの道 小学館文庫 2000.9.10

青い鳥

真夏の夜の惑星