作品目録

銀の三角

 

初出誌
「SFマガジン」1980年12月号~1982年6月号
受賞
第14回(1983年)星雲賞コミック部門受賞
目次
第一部
 1 いのりのあさ:1980年12月号(1980.12.1) p121~136(16p)
 2 チグリスとユーフラテスの岸辺:1981年1月号(1981.1.1) p121~136(16p)
 3 ミューパントーの歌:1981年2月号(1981.2.1) p185~200(16p)
 4 ラグトーリン迷路:1981年3月号(1981.3.1) p121~136(16p)
 5 風 水 時の流れ:1981年4月号(1981.4.1) p121~136(16p)
 6 消失と再生:1981年5月号(1981.5.1) p121~136(16p)
第二部
 1 マーリー・2:1981年6月号(1981.6.1) p121~136(16p)
 2 安定指数セクション:1981年7月号(1981.7.1) p121~136(16p)
 3 影日(かげび):1981年8月号(1981.8.1) p121~136(16p)
 4 高原幻想(たかはらげんそう):1981年9月号(1981.9.1) p121~136(6p)
 5 バリエーション:1981年10月号(1981.10.1) p121~136(16p)
 6 歪んだモザイク:1981年11月号(1981.11.1) p121~136(16p)
第三部
 1 交錯:1981年12月号(1981.12.1) p121~136(16p)
 2 糸をほぐす名前:1982年1月号(1982.1.1) p121~136(16p)
 3 異郷:1982年2月号(1982.2.1) p185~200(16p)
 4 空白の岸辺:1982年3月号(1982.3.1) p121~136(16p)
 5 夢籠(ゆめかご):1982年4月号(1982.4.1) p121~136(16p)
 6 ノヴァ:1982年5月号(1982.5.1) p121~136(16p)
 7 夢狩りの夕べ:1982年6月号(1982.6.1) p121~136(16p)
登場人物
ラグトーリン:吟遊詩人
マーリー・ザ・レイ:表向きはルポライター。中央年齢321歳。
エロキュス:ネオ・ルネッサンスの女王、古典オペラ歌手のルルゴー・モアだった
ミー・コン:マーリーのコンピュータ
グレイ・ブール:古代民族音楽の研究者。
ジェイフ・カルソリ:マーリーにエロキュスのテープを送った友人。
チェッカー:保安部のマーリーの上司。
リザリゾ:赤砂地の王
ガルガ城主:赤砂地の領主の一人
老ペシャ:赤砂地の予言者
ミューパントー(ディディン):銀の三角の最後の一人。
パヴァー:3万年前のプロメテでミューパントーの子孫を作ろうとする男
あらすじ
第一部
1.いのりのあさ:6年に1度のまつりで婚礼の朝を呼び、子供を作る種族がいた。ラグトーリンはその種族だと語る。
2.チグリスとユーフラテスの岸辺:マーリーは中央(セントラル)に属さないトメイという星までやってきて、エロキュスという歌手のコンサートに行く。そこでクーデターに巻き込まれ、瀕死のエロキュスを救出して話を聞く。彼女は元はセントラルのネオ・ルネッサンスの女王と呼ばれた歌手だったが、あるとき少女が金色の長い瞳の少年に歌っていた歌を聴き、自分の現在の環境に対しての異質さを感じ、セントラルを離れ、それまでと違う歌を歌っていた。中央(セントラル)の出身者は生体板を埋められ、再生することが出来る。ルルゴー・モタもその資格をもっていたが、トメイは遠く、再生のきかないダメージを受けていた。その場合本人の選択で存続か昇天かを選ぶことが出来るが、彼女は昇天を選択する。
3.ミューパントーの歌:半年後、マーリーは古代民族音楽の権威・ブール博士に会いに行く。エロキュスの歌を聴かせ、彼女が心を奪われたという少女が少年に歌っていた音楽の幻の話をする。するとブール博士がそれは「ラグトーリン」だと教えてくれる。ラグトーリンは吟遊詩人で博士は13年前に一度会ったことがあり、古代の民族音楽を聴かせてくれた。彼女は縦長で金色の瞳をもつ人種を探していた。そんな人種は存在しないが、古い記録に少しだけあった。
昔、音楽に対して少し変わった能力をもつ種族がいて、銀にけぶる三角と名付けた星に住んでいた。極度に繁殖力の弱い種族で、星は暗黒のガスに包まれていた。彼らは定期的にガスを晴らし、光を呼んでは発情し、主を存続させていた。その種族は長い金紅彩の瞳をもっていた、そして音楽と未来を読む力を持っていたという。
彼らはその予言力故、戦争に巻き込まれ、別の星へ連れて行かれたが、一代で死亡。その後星がなくなり、種の保存のため様々な試みが試されたが、絶滅した。最後の一人はミューパントーと呼ばれ、カリスト大地地下の鍾乳洞で暮らしていた。もう三万年も前の話だという。
4.ラグトーリン迷路:中央第一区青耳太陽系第五惑星の五位岬に住んでいる。マーリーはミー・コンにエロキュスのテープを分析させると、似た音楽が辺境の赤砂地のリザリゾという王のいる星系に頻出している。マーリーがリザリゾに会うと、ちょうど王子が誕生する。その子は金色の細長い瞳をもっていて、すぐに殺される。
5.風 水 時の流れ:マーリーは予言者ペシャに教えてもらった西の高原の音の老サに会いに行く。老サは亡くなっていたが、4年前にマーリーが訪ねてきて、やはりラグトーリンのことを聞いたという。マーリーには記憶がない。ラグトーリンはちょうど20日前に現れ、となりの部族のタカオという若者が連れて行ったという言う。マーリーはラグトーリンに会い、もって来たエロキュスの琴を渡して彼女のために一曲歌って欲しいと頼む。ラグトーリンが琴を弾くと、弦の共振によって爆発する仕掛けになっており、爆発するかと思いきや、時間が元に戻る。
6.消失と再生:マーリーはラグトーリンを殺そうとしたのだが、逆にラグトーリンに殺されてしまう。タカオはマーリーの死体を埋めるが、ラグトーリンはタカオの元を去る。マーリーの生体反応が消えたことに気づいた中央は辺境であるが故にボディの回収をあきらめ、クローン再生を行う。
第二部
1.マーリー・2:再生センターでのマーリーの再生でマーリーが赤砂地に行く前に残しておいた記憶をボディに注入する際にエラーが起きる。もう一人分の記憶が注入されてしまったのだ。二人分の記憶をもつマーリーは人格分裂を起こしやすい。もう一人はルルゴー・モア、消去されるはずだった記憶が残っていたためだ。再生されたマーリー・2は自己人格記憶が欠如していて、自分が誰なのか、わからない。
2.安定指数セクション:チェッカーはジェイフを呼び出し、マーリーに会わせた後、マーリーの出生や仕事について説明する。マーリーは安定指数のスペシャリストで社会変動を予知することが出来る。惑星サーザというもう失われた星の出身者で、その住人は予知能力があった。最近のマーリーの行動がおかしかったので、マーリー・1の行動を調べて欲しいとチェッカーはジェイフに依頼する。一方、ラグトーリンはまた会いに来るようマーリー・2に言う。
3.影日:マーリー・2は言われたとおり、赤砂地に行く。するとマーリー・1が訪ねたときに生まれた王子のせいで国中が不穏な空気に包まれていた。マーリー・2はガルガ城主の力を借りて、高原に向かう。
4.高原幻想:その夜はちょうど月蝕で、高原には音の老サを中心に楽士が集まって音楽を奏でていた。するとミューパントーの幻が現れる。老ペシャがマーリー・2を呼び寄せる。彼の元には殺されたはずの金色の瞳の王子がいた。何度殺しても生き返るため、王宮の予言者が老ペシャに預けたのだ。老ペシャはマーリー・2に王子を預けようとするが、マーリー・2は断る。だが、引き受けるように促すラグトーリンの声がした。
5.バリエーション:赤ん坊を預かったマーリー・2は宙港へ行こうとするが、到着前に王宮の群により撃墜される予知夢を見る(バリエーション1)。そこでガルガ城に行こうとするが、ここに到着するとリザリゾ王が待ちかまえていて、赤ん坊を取り上げられ殺される予知夢を見る(バリエーション2)。次に、宙港の宇宙船の近くに飛び降りようとするが、警備員に見つかって殺される…。というように次々と予知夢が生じる。ラグトーリンが現れて言う。「赤砂地には外部からの修正がきない。ミューパントーは動かない。」
6.歪んだモザイク:マーリー・2は時空人で、時間の移動と修正が出来るとラグトーリンは言う。15年後に赤ん坊は「ル・パントー」となり、ずっとリザリゾに殺され続けているが、その度に生き返る。それは彼が時空人で、別の時空から体を元に戻すからなのだが、最後に自分の時空軸を破壊し、異形音を出して自殺する。その「最後の音」を止めたいのだと語る。その音がモザイクを歪ませるのだ。マーリー・2には音を止める力があるから、助けて欲しいとラグトーリンに言われる。
第三部
1.交錯:マーリー・2はそのまま赤砂地に赤ん坊とともに残る。中央ではマーリー・2は行方不明になったことになっており、マーリー・3が再生される。エロキュスの記憶がマーリー・2に注入されたのは事故ではないとマーリー・3はチェッカーに調査を依頼する。ジェイフが現れ、マーリー・3にエロキュスを殺したことを追求される。
2.糸をほぐす名前:ジェイフがマーリー・3を撃とうとした瞬間、マーリー・2(エロキュス)が現れ、ラグトーリンがマーリー・3を別次元につれて行く。そもそも、マーリー・1がラグトーリンを訪ねて行ったのはル・パントーが生まれたときのはずだが、時空を超えて4歳の時だった。マーリー・1を殺して埋めたラグトーリンはエロキュスを探しに時空を超えた。ラグトーリンが見つけたのは7000年以上昔の地球の岸辺で歌人として一生を送るエロキュスだった。彼女を強引にパントーのいる今に転生させると、本来生きる場所から引き離された彼女の回帰願望は強烈なものになる。そのエネルギーがパントーの運命の糸をほぐすかもしれない。ルルゴー・モアとして誕生し、ネオ・クラシックの女王となった彼女を目覚めさせるためにラグトーリンが音楽を聴かせた。マーリー・1がエロキュスを殺しさえしなければ、彼女は赤砂地にたどり着き、ル・パントーに出会えたはずだった。そのためにラグトーリンはマーリー・2へのエロキュスの記憶の注入を行ったのだ。
3.異郷:何度やり直してもマーリーの予知能力がエロキュスの変動を予知して引き寄せ合ってしまう。マーリーの存在を消すために惑星サーザの太陽を変光を引き起こして住民を壊滅状態にさせても、マーリーは脱出してしまう。青耳もまもなく地殻変動が起き、安定地は大幅に変更するという。
マーリーがラグトーリンから逃れようとすると、辺境の星にとばされる。そこにジェイフが先に来ていた。
4.空白の岸辺:そこは3万年前のプロメ、帆座Xノヴァの爆発前の時代だった。そして、そこにミューパントー(ディディン)がいた。パヴァーという男に交配させられていて、子孫が出来たら惑星を一つもらえることになっていると言う。地下を川が流れる、太陽から遠く離れた暗い惑星で太陽の終わりの日まで暮らしたいという。
5.夢籠(ゆめかご):赤砂地ではリザリゾ王がパントーを殺し続ける。マーリー・2はただそばにいるだけだ。ところがマーリー・2がリザリゾ王の王女の前に姿を現したころで王の怒りをかい、王宮を追い出される。パントーがとばす夢(パントーの幻の姿)がタカオを呼び、マーリー・2を救う。タカオはマーリー・1が持っていたエロキュスの琴をまだもっていて、マーリー・2に渡す。
6.ノヴァ:マーリー・3はディディンが殺される予知夢を見るが、それを止めようとしない。ディディンは死んだが意識はまだ残っていて、約束の惑星につれて行って欲しいとマーリー・3に頼む。そこへちょうど帆座Xのノヴァの光が届く。ディディンの意識が葬送の歌をマーリー・3に歌わせる。それはエロキュスが歌っていた歌だった。
一方、赤砂地では影日に楽士が集まるというので、マーリー・2は琴を持って出かけて行く。すると、マーリー・3らと時空を超えて出会う。
7.夢狩りの夕べ:マーリー・3はマーリー・2を殺す。パントーがエロキュスのいた古代の岸辺へマーリー・2をとばした。運命の糸がほどけたので、糸の結び目だったパントーはいなくなった。マーリー・2の死がパントーの死の夢を変える引き金になったのだ。
リザリゾ王の異形の子供も、銀の三角の種族もすべてなかったことになった。だが、マーリー・2の中にはパントーの夢が残っている。彼らの音楽・彼らの歌が永遠にマーリー・2=エロキュスの中に残ることになった。
ラグトーリンのプラン通りではなかったが、エロキュスは銀の三角の夢の結晶として永遠に生かすことになった。マーリー・3とジェイフは青耳に戻る。青耳の変光はまだずっと先だろう。マーリー・3は地球にいるエロキュスに会いに行こうかと考えている。
コメント
「宇宙叙事詩」「ラーギニー」「金曜の夜の集会」と1979年から1980年にかけ、『SFマガジン』での活躍が目立ってきたところへ、満を持しての本格SF長編登場です。萩尾先生のSF作品の中でもっともSFファンの評価の高い作品です。その分、一般のファンにはどうしても難解に見えてしまいますが、じっくり読むと、一応話としてはわかります。絵はもっとも線の細い時期ではないかと思いますが、非常に美しく、一番好きだというファンが多いのも、この作品の特徴です。
もともとは「いのちのあさ」を書いて16ページの短編として渡すつもりが、話がふくらんで来たので、「ラーギニー」をわたし、別に連載させてもらえないかと萩尾先生の方から頼んだそうです(新書版あとがきより)。
「スター・レッド」のエルグ同様、マーリーも失われた星の生き残りで、特殊能力があり、そこを見込まれて仕事をしています。エルグもマーリーも極端に孤独ですが、それぞれに救いを得ることができました。
そしてこの砂漠ファッションが萩尾先生がSFを描かれる際の絵柄のベースになりました。これが「スター・レッド」「銀の三角」「マージナル」へと進化していき、どんどん美しい絵に変化していきます。
そして、ちょっとしたキーになるのが「子供を産む」ところかなと思います。「スターレッド」ではクリュセの下でしか子供が生まれませんでした。「銀の三角」では6年周期でしか子供を作ることが出来ません。そして「マージナル」では、男しかいない世界になります。
第一部の「ミューパントーの歌」で最初に登場するマーリーの絵ですが、どうみても、これはiPodですね。萩尾先生が30年後を予知した証拠です。さすがです。

2010.7.2

収録書籍
銀の三角


銀の三角 早川書房 1982.8

銀の三角

銀の三角 早川書房(ハヤカワ新書) 1984.10

萩尾望都作品集・第二期 第10巻 銀の三角

萩尾望都作品集・第2期 10 銀の三角 小学館 1985.8

銀の三角


銀の三角 白泉社文庫 1994.9

入手しやすい本作品収録の単行本 銀の三角

銀の三角 白泉社文庫 1994.9

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