作品目録

マージナル

 

初出誌
「プチフラワー」1985年8月号~1987年10月号
目次
プロローグ ホウリ・マザ:1985年8月号(1985.8.1) p7~56(48p)(※扉裏広告)
第1話 迷い子:1985年9月号(1985.9.1) p53~137(45p)
第2話 アシジンの岩屋:1985年10月号(1985.10.1) p73~122(49p)(※扉裏広告)
第3話 二九九九-現在:1985年11月号(1985.11.1) p185~234(48p)(※扉裏広告)
第4話 漆黒の森:1985年12月号(1985.12.1) p5~46(41p)
第5話 図書の家の夜鳴鳥:1986年2月号(1986.2.1) p7~55(49p)
第6話 花石榴の村:1986年3月号(1986.3.1) p217~257(40p)
第7話 双頭:1986年4月号(1986.4.1) p75~115(40p)(※扉裏広告)
第8話 レクイエム:1986年5月号(1986.5.1) p219~258(39p)(※扉裏広告。連載時タイトル;意思)
第9話 イワンの研究について:1986年6月号(1986.6.1) 199~238(38p)(※扉裏広告)
第10話 死霊:1986年7月号(1986.7.1) p155~194(38p)(※扉裏広告)
第11話 受胎告知:1986年8月号(1986.8.1) p7~54(48p)
第12話 夢の子供 No.151:1986年9月号(1986.9.1) p187~226(38p)(※扉裏広告)
第13話 ヘビじじいとヘビ男:1986年11月号(1986.11.1) p7~48(42p)
第14話 星と炎:1986年12月号(1986.12.1) p321~359(39p)(※扉モノクロ)
第15話 狩人:1987年1月号(1987.1.1) p217~255(38p)
第16話 えもの:1987年2月号(1987.2.1) p7~45(38p)
第17話 アシジンとマルグレーヴ:1987年3月号(1987.3.1) p153~193(40p)
第18話 最後の晩餐:1987年5月号(1987.5.1) p5~49(44p)
第19話 ハレルヤ(連載時タイトル:カナリヤ):1987年6月号(1987.6.1) p85~126(40p)
第20話 暗示:1987年7月号(1987.7.1) p185~226(40p)
第21話 洪水:1987年8月号(1987.8.1) p7~52(46p)
第22話 境界の果て:1987年9月号(1987.9.1) p7~55(49p)
エピローグ ホウリ・ナイト:1987年10月号(1987.10.1) p187~228(41p)
登場人物
キラ:イワンの作った子供
グリンジャ:ホウリ・マザを暗殺した男
アシジン:村を離れ一人で岩屋に住む。子供の頃死にかけてセンターに運ばれ、帰って来た。
ホウリ・マザ:地球上のただ一人の女性。すべての者の母。
メイヤード:センターの長官。マルグレーブとも呼ばれる。
市長:都市(シティ)のトップ。
ミカル:市長の息子
ハバト:グリンジャの同村の者。
チト:7代目のホウリ・マザになるはずだったが、グリンジャに殺された少年。
イワン・アレクサンドル:生物学者。
アーリン・アレクサンドル:生物学者。イワンのパートナーでキラの母親。
スズキ・ゴー:生物学者。
エメラダ:図書の家の人間。7代目のホウリ・マザ。
エドモス:図書の家の人間。エメラダの念者。
ネズ:市長の秘書。
ガルダ・オクターブ:カンパニーの株主。
アド・オクターブ:オクターブ家の人間でカンパニーの株主。
フィズ女史:カンパニーの株主。
ナースタース・オクターブ:カンパニーの株主であるオクターブ家の一員。
マルコ:センターの人間だが、メイヤードと対立している。
ローニ:ミカルの学友。
センザイ・マスター:ゴビ砂漠から来たエスパー。
パルミッサ:月から来た科学者。
テルミッサ:月から来た科学者。
あらすじ
2999年、地球(マージナル)の環境は劣悪化していたため、人間は月に避難していた。地球は汚染され、人々はD因子に感染して受胎能力がなくなっており、子供が生まれない世界になっていた。そこでカンパニーは月の市民から卵子を募り、それを地球に輸送し、センターの無菌の地下で受精させる。精子はすでに病気に対する抗体をもつマージナルの市民のもの。この抗体はY遺伝子のみにつくため、男しか生まれてこない。人工子宮で育った子供はナンバーをつけられて父親の元に送り返される。これはカンパニーが遺伝子と文化の相互作用によって起こる進化の奇跡を求めて、地球規模で行われた壮大な実験だった。
この地球のプロジェクトを任されているのがマルグレーブ、メイヤードだ。マージナルの住民はカンパニーの存在は一切知らされておらず、ホウリ・マザが受胎して子供を産むということだけ告知されていた。ホウリ・マザが実際に子供を産むわけではないが、宗教が必要だったのだ。元は男のマージナルの住民から新しいマザを選定し、女性に見えるよう手術をするのだ。そうして都市(シティ)へは子供をもらいに村々から人が集まってくる。ところが、近年子供が生まれないため人口が減っており、人々は不安に感じていた……。
コメント
子供が生まれない。その世界では真綿で首を絞めるような閉塞感があり、自殺者が相次ぎ村々でさまざまに憶測が流れます。その中では古いマザを暗殺しようとする後ろ向きなグリンジャと、長官らを暗殺しようとする前向きなアシジン(の村の人々)がいます。この前向きと後ろ向きの指向性が、二人の表情に現れているところに絵の力を感じます。
死に場所を求めてやってきた聖者(乞食)たちの夢をグリンジャが引き受け、それをキラが受け止めます。その「死」への思いが増幅し、流れ出た水のパワーを増幅させ、コントロール不能になります。キラの望みは何でしょう?ゴー博士が「破滅以外の夢を見て欲しい」とキラに地球を託します。
そしてキラは病んだ地球の夢「青い海」と同化し、キラ自身は失われてしまうのですが、地球を再生することになります。この一人の人間が惑星を再生させる、というお話は「スター・レッド」のエルグのようです。
センターは氷室に残ったキラを運び出し、やけどを修復、アシジンとグリンジャの元に戻します。なぜキラはアシジンとグリンジャと一緒なら力を爆発させないですむのでしょう?それを調べるためなのですが、ただの刷り込みなのかどうか。3人ならバランスがとれるということなのか。いずれにせよ、とても美しいラストシーンです。萩尾先生の長編のラストは、いつもこんなふうに心穏やかにさせてくれるものです。
このお話で印象的なのは、なぜメイヤードはナースタースを拒絶したのか、というところです。おそらくは自分にあるエゼキェラ因子がもととなっている知覚障害や進行性の遺伝子病が原因なのでしょう。また、薬剤が埋められ、女性ホルモンを注入して片側の胸だけがふくらんでいる不完全な肉体のことも原因でしょう。アシジンの肉体を美しいと何度も思い返しているところからも、それがわかります(あと22年で死ぬことは知らなかったようですが)。それにしても「愛のほかはぜんぶやる」なんて言っておきながら、最後にナースタースの名を呼ぶなんて、なんというツンデレ。ナースタースのツンデレぶりも理解できるというものです。
「マージナル」はメディアミックスされています。ラジオドラマになり、CDが発売されています(サウンドドラマ「マージナル」)。また、このドラマ用のサウンドトラックやイメージアルバムも出ています。
さらに、「狩人は眠らない」という画集があります。これは、マージナルの頃の絵が中心の画集で、非常に美しい水彩画が多く収録されています。萩尾先生の砂漠が舞台のSFはここで頂点を極めます。その古代アラブのようなファッションとナースタースらの新しいファッションが「マージナル」というSF作品に結実しています。この非常に充実した長編SFは1985年から87年の2年以上を費やして連載されました。この頃、「4/4カトルカース」「X+Y」などの短・中編SFも多数発表されています。その後はバレエシリーズに突入します。たいへん充実した時期でした。

2010.7.14

収録書籍
マージナル 第1巻(プチコミックス41)

マージナル 第1巻(プチコミックス)小学館 1986.7.20

マージナル 第2巻(プチコミックス42)

マージナル 第2巻(プチコミックス)小学館 1987.2.20

マージナル 第3巻(プチコミックス43)

マージナル 第3巻(プチコミックス)小学館 1987.4.20

マージナル 第4巻(プチコミックス44)

マージナル 第4巻(プチコミックス)小学館 1987.10.20

マージナル 第5巻(プチコミックス45)

マージナル 第5巻(プチコミックス)小学館 1987.11.20

マージナル 第1巻

マージナル 第1巻 小学館(小学館叢書) 1994.2.20

マージナル 第2巻

マージナル 第2巻 小学館(小学館叢書) 1994.3.20

マージナル 第3巻

マージナル 第3巻 小学館(小学館叢書) 1994.4.20

マージナル 第1巻

マージナル 第1巻 小学館文庫(新版) 1999.8.10

マージナル 第2巻

マージナル 第2巻 小学館文庫(新版) 1999.8.10

マージナル 第3巻

マージナル 第3巻 小学館文庫(新版) 1999.9.10

入手しやすい本作品収録の単行本 マージナル 第1巻

マージナル 第1巻 小学館文庫(新版) 1999.9.10

amazonで購入する
マージナル 第2巻

マージナル 第2巻 小学館文庫(新版) 1999.9.10

amazonで購入する
マージナル 第3巻

マージナル 第3巻 小学館文庫(新版) 1999.9.10

amazonで購入する
参考情報
ラジオドラマ
画集「狩人は眠らない」
舞台:スタジオライフ

翻訳:イタリア語
Marginal :1

Marginal :2

Marginal :3

きみは美しい瞳

完全犯罪〈フェアリー〉