作品目録

なのはな―幻想『銀河鉄道の夜』

 

初出
「萩尾望都作品集 なのはな」(2012.3.12)描き下ろし p131~154(24p)
登場人物
阿部ナホ:小学校6年生の女の子。
阿部学(ガク):ナホの兄。
阿部スミヨ(ばーちゃん):ナホの祖母。
阿部トミコ(お母さん):ナホの母親。
お父さん:ナホの父親。
あらすじ
フクシマに住む小学生ナホは宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を読み始めた。兄にこれは外国のお話かと尋ねると、日本のお話だと教えられる。カンパネルラやジョバンニといった名前が外国人のように聞こえたからだ。父親のパソコンには先の震災で壊れた線路の写真が写っている。その写真は「ジョバンニ線」だと言われたと思う。「銀河鉄道の夜」の続きを読むナオは、ふと気付くと銀河鉄道に乗っていた…
コメント
「なのはな」の後日譚です。宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」と「ひかりの素足」が登場します。また、こちらに登場する駅や線路について欄外にも説明がありますが、触れておきます。カンパネルラ駅は三陸鉄道北リアス線の田野畑駅のことでカンパネルラ田野畑というニックネームがあります。ジョバンニ線というのはありませんが、常磐線の空耳という位置づけで登場します。
震災で行方不明になった人はどこへ行ったのだろう?という子供の問いかけに、大人が応えた美しいお話だと思います。
この「なのはな」の連作については、登場したときは驚かされました。後の原発三部作もそうですが、私はこの直接的な表現や事実認識について当然批判が出るものを思っていました。反応が知りたくてこのtwitterのまとめをつくったのです。賞賛ももちろん多数あるだろうとは予想していましたが、批判は予想外に少なかったなというのが正直なところです。本を破り捨てたという人のはさすがにひどいなと思い入れていませんが、特に批判については見逃さないよう気をつけて入れたつもりです。
他のSNSなどでも見かけられたものも含め、批判については大きくまとめるとこの3つがあげられます。

  1. なのはなに土壌汚染の除去能力が本当にあるのか証明出来ていない。また実際に除去能力があるのであれば、なのはなの中に立っている少女たちが危険ではないか。美しい絵柄を優先させて現実の危険性に目をつぶっている。
  2. 現実に存在する福島をフクシマと表現したこと。リアリティを少し弱めたかった意図があるのはわかるが、実際には明らかに福島を借りてきているのだから、ごまかすような表現はずるい。福島の現状に本当に沿った表現になっているのかどうかはなはだ疑問。
  3. 表現が直接的過ぎる。作品としてもっと上手に昇華して欲しかったし、それが出来る作家だろう。
他にもありますが、ざっくりと言えばこんな感じです。もろもろの批判をもちろん予測されていたことと思います。それでも描かずにいられなかった思いを、先生は「作家としてのエゴ」と表現されていました。
三部作は劇作としてのおもしろさがありますし、「なのはな―幻想『銀河鉄道の夜』」は人が死ぬということを受け入れていく子供の気持ちを繊細に表現していて素晴らしいと思いますが、「なのはな」自体は本当に萩尾先生の「これは作品にして表に出さなければ、自分の作家生命にかかわる」という強い気持ちが感じられ、内容よりそちらの思いに圧倒されたのは確かです。
常に高いところを目指して来られた萩尾先生の別の一面を初めて見ました。長い間一人の作家を追っていると、こういうことにも出会うんだなという意外な気持ちをもって読んでいました。作品に対する批判について私も理解できるのですが、私自身はこういった思いでいっぱいなのです。
私はこれまで作品からしか萩尾先生を見て来なかったのですが、それがほんの少し崩れたような気がしました。

2012.3.23

収録書籍
萩尾望都作品集 なのはな

萩尾望都作品集 なのはな 小学館 2012.3.12

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