作品目録

なのはな

シリーズ・ここではないどこか 第23話

初出誌
「flowers」2011年8月号(2011.8.1) p247~270(24p)
登場人物
阿部ナホ:小学校6年生の女の子。
阿部学(ガク):ナホの兄。
阿部スミヨ(ばーちゃん):ナホの祖母。行方不明。
じーちゃん:ナホの祖父。
阿部トミコ(お母さん):ナホの母親。
お父さん:ナホの父親。
石田音寿:ミュージシャン。ナホの家の近所に住んでいた。
藤川さん:おばあちゃんの友達。看護師。
あらすじ
ナホは福島に住む小学6年生。震災による津波でおばあちゃんが行方不明になっている。家は原発に近く、避難して今は別の家に家族5人で住んでいる。おばあちゃんが帰って来るかもしれないと思うナホは、おばあちゃんの夢を見る。夢の中でおばあちゃんと一緒にいた女の子は果たして誰なのだろう…?
コメント
驚きました。萩尾先生がこれだけ時事に直接的な作品を描かれたのは初めてではないでしょうか?[1]それだけやむにやまれぬ思いがあったのかと拝察します。4月末の「音楽に在りて」のトークショーで「震災のことがいつも頭の中をめぐっている。」とおっしゃっていたので、考えて考えて、そして描かれた作品なのでしょう。作品の枠外にも「福島の原発のことが頭から離れず」とコメントされていました。
この時期に、これだけ直接的に福島へ言及されることには、逡巡もおありだったのではないかと勝手に想像します。でも、出さずにはいられなかった。それはご自身がこれを描かなくては先に進められないと考えられたのか、それとも読者に対して今なにかを語らなくてはという作家としての矜持だったのか。いずれにせよ、マネージャーさんが「萩尾の新境地」と言われるだけのインパクトはありました。
作品の冒頭でいきなり「チェルノブイリ」「フクシマ」という言葉が飛び込んで来て、ビクっとなりました。子供も大人もマスクがかかせない。道ばたで放射線量を量るのは普通の人々。少し前ならSFかと思うような光景が広がります。それからナホの家族構成、震災で受けた被害などが描かれていきます。「グレンスミスの日記」「半神」といった短編の名手というか天才ですから、このページ数でもこれだけのことが描き出せます。
石田音寿は震災直後にyoutubeで自らの曲の替え歌を歌った斉藤和義のイメージでしょうか?[2]「ALALA原則」(As Low As Reasonably Achievable)なんていう言葉が出てきて、SFを描く作家は言葉の使い方が違います。この歌、誰か歌って欲しいです。
時事に直結した作品を描くことは後々事実関係などの変化が出る可能性があり、いろいろと危険はあると思うのですが、それでもアウトプットしなくてはとお考えになったのでしょう。そしてそのクオリティ、その内容はやはりさすがの萩尾ワールド。ファンタジーの色も帯びて、かすかな希望の光の見える作品に仕上がっています。本当にすごい。
「なのはな」の意味は今の段階ではネタバレが過ぎるので書きませんが、ラストの方の見開き、私にはカラーで見えました。

2011.6.27

追補
「萩尾先生がこれだけ時事に直接的な作品を描かれたのは初めてではないでしょうか?」と上記に書きましたが、ご指摘を受けて気付いたのですが、「かたっぽのふるぐつ」という作品がありました。訂正いたします。

2011.6.28

石田音寿のモデルは明石隼汰(あかしはやた)さんとおっしゃるミュージシャンで、「ALALAソング」もこの方の歌でした。2019年3月、劇団スタジオライフにて「なのはな」が上演され、その際にご本人が登場し歌われていました。作品の中では一部だった「ALALAソング」に萩尾先生ご自身で歌詞を追加されています。詳細はこちら

2019.3.28

収録書籍
萩尾望都作品集 なのはな

萩尾望都作品集 なのはな 小学館 2012.3.12

漫画家たちが描いた日本の歴史 高度成長 光と影

漫画家たちが描いた日本の歴史 高度成長 光と影 金の星社 2014.3

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