作品目録

百合もバラも

シリーズ・ここではないどこか 第18話

初出誌
「flowers」2010年10月号(2010.10.1) p143~166(24p)
登場人物
生方正臣:作家。大学の講師もしている。
生方洋宇子:正臣の妻。
生方清美:正臣の長女。高校生。
生方サトル:正臣の長男。中学生。
千田玲奈:正臣の母親。
千田巴:正臣の義父。
あらすじ
生方正臣が出版パーティから百合をかかえて帰宅すると、妻の洋宇子が話があるという。あらたまった様子の妻に、少し驚いたが、話を聞くと、子供が出来たという。すでに高校生の長女と中学生の長男、二人の子供がいるのに、ずっと年の離れた子供を生むことに迷いを見せる妻。生方もとまどいを隠せないが…。
コメント
「世界の終わりにたった1人で」で、生方正臣の家族関係は一通り出てきましたが、さらに逗子のおじいさんや奥さんの洋宇子さんの青森の実家まで出てきました。正臣は逗子のおじいさんのところに養子に出されたようですが、事情については描かれていません。
生方先生の話はSFの場合もありますが、まるでSFとは関係ないときもあります。ですから、そこにこだわる必要もないし、ましてや過去に生方一家の複雑な関係も描かれているので、特に変ではありません。「青いドア」は子供が出来て一見落着(?)みたいな話でしたし、「くろいひつじ」は一族の中の異端者の話でしたので、「家族」にまつわる作品もあり、そういう意味では特別シリーズの中での違和感を憶えたわけではないのですが、なぜここで生方家に新しい命なのかな…。高齢出産がはやってるからでしょうか?あるいはこの「オマジナイ」にまつわるエピソードで気になることがあったのでしょうか?
子供を産む、産まないは本当に微妙な話で、「No」の雰囲気を先に漂わせた方が悪者になり、状況が変われば後々責められることもあるでしょう。一方で「Yes」の雰囲気をただよわせることが相手への押しつけにならないか、ものすごく気を遣うわけです。洋宇子さんの「もうひとりいいってムードなんだね」の台詞がこの雰囲気の読み合いをしている状態を現しているようです。特に男性は結果的には奥さんががんばらないとならないことなので、とても気を遣うようです。生方先生も考えてます。
洋宇子さんが実際いつ決心したのかわからないと生方先生は言いますが、果たして洋宇子さん本人もわからないのかもしれません。授かり物ですし、本当に自分の意志だけでなんとかなることではないのですが、だからと言って産んだり育てたりするのは強い意志がないといけないことなので、何とも難しいことですね。
他人に対する言い訳として使うための「オマジナイ」なのですが、この子が大きくなったときに経緯なんてもう忘れてしまい、両親がお互いに「お父さんがお願いしますと頭を下げたから…」「お母さんが…」と責任の押し付け合いみたいになっても、それはそれでいいかもしれませんね。その子からしたら、二人ともその子の誕生を願ったわけなのですから。

2010.8.28

収録書籍
春の小川

春の小川(フラワーズコミックス) 小学館 2011.3.15

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