作品目録

春の小川

シリーズ・ここではないどこか 第21話

初出誌
「flowers」2011年3月号(2011.3.1) p79~128(50p)
登場人物
池ノ上光一:この春に中学1年になった少年
池ノ上晶子:光一の母親
池ノ上富士男:光一の父親。不動産屋。
五月:晶子の姉。光一の叔母で何かと面倒をみてくれている。
千田雄二:千田(後の生方)正臣の弟。
千田照比:正臣の義理の父親。工房を開いている。
石亀エリ:富士男の恋人。会社の近くのおでん屋の娘。
あらすじ
光一は小学校6年生。春になれば中学生だ。光一の母・晶子は3年ほど前から入院していて、あまり家にいない。年末の一時退院で帰宅した母に甘えて、光一は母と一緒の布団で寝る。布団の中で光一は入学式の頃に毎年桜が咲く小川の近くの公園に行こうと母と約束する。そのとき卵色の黄色い着物を着るように光一は母にねだる。
朝、目が覚めると母が起きてこないが…
コメント
母と息子の話で、亡くなった母親が川に現れるところが、「柳の木」を彷彿とさせます。あの作品ではもう少し小さな男の子でしたが、死んだ母親が息子に会いに来るというところは同じ意味合いを持つでしょう。私には「この春の小川」は「柳の木」の前のお話なような気がしてなりません。これから先晶子はずっと光一を見守って行くように思えます。。
光一は母親が死んだときに一緒にいたのに、冷たくなっていなかったせいで、ずっと側にいるような気がしていて、死んでいることが納得できません。彼女は「卵色の着物を見て桜を見よう」という光一との約束を果たすため、入学式の日、小川のそばの公園にやってきます。光一は一緒に帰ろうと頼みますが、桜の花のように消えてしまった母を見て、父親に母は死んだと言われ、もう母親は本当に帰って来ないのだと気付きます。光一は無理にでも自分に「母の死」を納得させようとして、母の遺品を捨てたり人にあげたりしようとします。
そんな光一の頑なな心を溶かしたのが、学友の千田雄二です。彼は母親が公園に現れたときに一緒に会っています。雄二が母親を見ていたことで、本当に母親が来たのだと理解した光一は、そこでやはり母親はやってきたのだと、母親が死んでいることを本当に納得したように見えます。
千田雄二は宇宙船運転免許証に登場した生方先生の弟です。彼は20年ほど前に亡くなっている、と生方先生が話しています。このお話自体が20年以上前の話という設定だと推測できます。
萩尾先生はずっと家庭の問題、親子の問題について書かれていますが、長い間、少し突き放した感じの作品が多く、やはり「帰ってくる子」以後の作品は違うように感じます。この作品、かなりぐっと来るので、ちょっと何度もは読めませんね。

2011.2.1

収録書籍
春の小川

春の小川(フラワーズコミックス) 小学館 2011.3.10

山へ行く

山へ行く(小学館文庫) 小学館 2016.3.20

入手しやすい本作品収録の単行本 山へ行く

山へ行く(小学館文庫) 小学館 2016.3.20

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