作品目録

十年目の毬絵

 

初出誌
「ビッグコミックオリジナル」1977年3月20日号(第4巻第6号) p89~104(16p)
登場人物
島田太一:主人公。大学の芸術学部を卒業し、染色工房で図案を描いている。
津川毬絵:旧姓は久野。シマの大学時代の友人で、今でも彼の心をとらえている女性。
津川克実:シマの大学時代の友人。突然大学を中退し、毬絵と結婚。若手の才能ある画家として認められていたが…
工房の社長:シマの才能を認め、個展を開くことを勧める。
あらすじ
シマは毬絵に告白する夢を見て息苦しくなって目覚める。シマ・津川・毬絵の3人は、大学時代の親友で、いつも共に夢や芸術を語り合う仲間だった。しかし、もう二人からの音信もなく、十年の月日が流れていたが、毬絵への思いは消えてはいなかった。二人が去っていったのは、才能のない自分を見限ったからだと思い、うつうつとした感情を引きずっていたシマだが、それに決着を付けようと一念発起し、個展を開く決意をする。まさにその折、津川からの電話が…。それは思いもよらない知らせだった。
コメント
日本の、それも日本画の世界という純和風のお話。「突然、炎のごとく」という作品もありましたが、3人で一緒にいることによって才能が輝くこともあります。津川はシマと毬絵と一緒にいられてこそ才能を発揮でき、シマの方も同じでした。ただ、シマの方が毬絵もいないので何故かまだそこそこでやっていけた。ところが津川の方はかえって毬絵だけがいたことで、才能の枯渇が激しかったということのような気がします。
では、毬絵の望みは?毬絵の望みは自分が津川を支えて津川の才能を開花させることができると思っていました。ところが、その役割を追うのは、実はシマだったのではないかと感じるに至り、「3人でいればよかった」と出せない手紙をつづったのだと想像ます。
津川も毬絵も黙ってシマの前を去ったことで、シマに負い目があり、会うことはかなわなかったのです。(それはシマに毬絵を奪われたくない津川の望んだことではありましたが)。どうして3人でいられなかったのでしょう。津川たちが結婚しても、それは…ひょっとしたら出来たのではないでしょうか?

2011.10.26

収録書籍
スター・レッド 第2巻(フラワー・コミックス582)

スター・レッド 2 フラワーコミックス  小学館 1980.6

萩尾望都作品集・第二期 第16巻 エッグ・スタンド

萩尾望都作品集・第2期 16 エッグ・スタンド 小学館 1985.1

10月の少女たち

10月の少女たち 小学館文庫 2012.10.18

投稿
16ページの現代劇。扉絵、毬絵の何とも言いようのない悲愁を漂わせた表情に、惹き付けられる。もっさりとしたいかにも人の良さそうなシマは、少女漫画誌ではとても主人公になりそうもないが(島さん、ごめんなさい!)、この物語の要はこの人でなければ務まらない。才能や人格は、見かけや、本人の認識ではわからないものだ。そして、萩尾作品に幾たびも繰り返される、「3人」の調和と無限の可能性のモチーフ(そういえば昔「ドリカム編成」ってあったよね)。それが、月並みな男女の関係、「結婚」という男と社会にとっては都合の良い制度によって壊されてしまうことの悲痛さに泣かされる。

2005.8.21 へびいちご

入手しやすい本作品収録の単行本 10月の少女たち

10月の少女たち 小学館文庫 2012.10.18

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参考情報
翻訳:英語

スペースストリート

マリーン