作品目録

アメリカン・パイ

 

初出誌
「プリンセス」1976年2~3月号 79p
前編:1976年2月号(1976.2.1) p7~48(42p)
後編:1976年3月号(1976.3.1) p251~290(40p)
あらすじ
生まれ育ったマイアミで暮らし、地下ライブハウス「あなぐら」でバンドを組んで歌うグランパは両親に早くに死なれ、育ててくれた祖母とも4年前に死に別れた天涯孤独の身。顔は悪いが仲間に恵まれ、売れないが好きな歌を歌い、友達が世界中に散らばっていて、毎日楽しく暮らしている。
そんなグランパはある日、自分の朝食を盗んだ浮浪児のような少年と出会う。13~14歳くらいに見えるが、行くところがないらしい少年を引き取って暮らし始めるが、実際は少女でリューという名前だったことがわかる。無口で、自分の考えを話さず、ドン・マクリーンの「アメリカン・パイ」を口ずさむだけだ。
二人で海岸を散歩しているとき、飼っているオウムが誤って空気銃で撃たれ、死んだかと思ったリューが突然家に帰ってしまう。様子がおかしいと感じたグランパは、リューの思いを放とうと、前座で好きなように歌を歌わせてみる。朗々と歌うリューにグランパも観客も驚いたが、具合が悪くなり、途中で舞台を降りてしまう。
リューが病気なのかもしれないと思い、偶然知り合った医者に診察を依頼すると、リューについて意外なことが判明する。それは…
コメント
物語の最初と最後に使われている(これは最後の方。最初と微妙に違います)下記の詩があまりに素晴らしく、誰かアメリカのフォークソングシンガーが作った歌詞なのかなと以前は思っていました。ドン・マクリーン(注1)の「アメリカン・パイ」は先に曲の方を知っていたので、この曲の歌詞でないことは知ってましたが。下の詩は萩尾先生のオリジナルなんですね。(注2)
古い古い歌が
誰が歌ったのかわからないくらい古い歌が
それをつくった人のことも歌った人のこともすべて忘れさられ消えさっても
その歌は残ってるように
幾世代すぎても想いはともに時をこえ歌いつがれて
そこに残っているように
そんなふうに生命の消えぬ限り時の消えぬ限り
いや もしなにもかもが失われ消えても
果てぬ闇の底に想いだけは残るのだ
時の流れに星ぼしの輝きの下に
また幾千の命の中をどこまでもどこまでも
かけてゆくのだおまえの想いは…
アメリカ、それも脳天気なリゾート地マイアミを舞台にした作品なんて、ヨーロッパを舞台にした作品の多い萩尾先生の作品から見ると、珍しいなという印象は否めませんでした。が、これは死に近づいている少女の魂の「救済」のお話なのですから、明るい場所が必要だったのだろうかと思います。
古くからアメリカのリゾートの代表のように言われるマイアミですが、確かに大きなホテルが海岸沿いに並ぶ一大リゾート地です。ホテルだけではなくコンドミニアムも多い。でもハワイとは違って、意外と静かです。音が少ないとか人が少ないとかじゃなくて、雰囲気の問題だと思います。ハワイほど脳天気じゃない?という感じと言えばわかってもらえるかなぁ…。いかにも「アメリカ的」であることはあるんですけど。黒人の少年達がフットサルしてるとか、太った白人が並んで寝てるとか…ヨーロッパやアジアや南太平洋ほか南の島リゾートとは明らかに違う不思議な場所です。
「真夜中のカーボーイ」でダスティン・ホフマンとジョン・ヴォイトが最後に向かったのがフロリダでした。マイアミ、フロリダという場所はいわば「死に場所」なのでしょうか。
この作品の前に描かれた「11人いる」に「アマゾン」というキャラクターがいて、この人の顔と同じ顔ではありますが、「グランパ」は萩尾作品の一つのキャラクターとして確立されたように見えます。このキャラクターは「ミロン」(メッシュ)へとつながる不幸な美形を救う系譜の原型です。「顔は悪いがなかなか気のいい男のようじゃないか」。顔が長くて髪が長くて、お人好し。鳥だろうが、犬だろうが、人だろうが、何でも世話します。
こういう人物がいないと、物語は転がっていきません。素晴らしいキャラクターを造形されたと思います。読者も癒されます。
収録書籍
萩尾望都作品集 第17巻 アメリカン・パイ

萩尾望都作品集 17 アメリカン・パイ 小学館 1977.10

夢枕獏少女マンガ館

夢枕獏少女マンガ館 文藝春秋 1992 

アメリカン・パイ


アメリカン・パイ 秋田文庫 2003.6

備考
「アメリカン・パイ」(ドン・マクリーン)について
ドン・マクリーンがバディ・ホリーに捧げた1972年の作品。8分以上の長い曲ですが、次第に盛り上がるパワーに圧倒され、聞き飽きるということはありません。
ドン・マクリーンは現在も活躍中のようで、公式サイトDon MacLean Onlineにこの曲の歌詞が掲載されています。リフレインに出てくる"This'll be the day that I die"という節については 「これが私が死ぬ日」ではなく「私が死ぬなんて考えられない」と言う意味だそうで…。リューの言葉のようです
物語の中にもありましたが、絶望の歌、というか、哀しい歌です。けど、曲調は明るい。「いかにも」アメリカン・ポップあるいはフォークという感じでもありません。長い物語です。是非一度聞いてみて下さい。→amazon


「詩人の魂 L'Ame des Poetes」(シャルル・トレネ)について(2017.10.31)
この詩はシャンソンの「詩人の魂」という曲ではないか、という情報をいただきました。1951年に発表されたシャルル・トレネの曲です。調べてみると多くの人が歌っているスタンダードなシャンソンです。詩人の魂  シャルル・トレネ: Charles Trenet – L’âme des poètes (1951)詩人の魂 L'âme des poètesに日本語訳があります。とても近いですけれど、言葉の選び方はやはり違うので、エッセンスとして多く取り込んでいるオリジナルと考えています。
入手しやすい本作品収録の単行本 アメリカン・パイ

アメリカン・パイ 秋田文庫 2003.6

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参考情報
舞台(宝塚)

一週間

花と光の中