エッセイ集「一瞬と永遠と」の文庫版が刊行されました
2016年5月6日、「一瞬と永遠と」(朝日文庫)が朝日新聞出版から刊行されました。これは2011年6月に幻戯書房から刊行されたエッセイ集の文庫化です。文庫化にあたり、2本のエッセイ、文庫化にあたっての萩尾先生ご自身のあとがき、そして穂村弘さんによる解説が新たに追加されています。
この追加された2本のエッセイは「女心」と「わが師の恩」というもので、後者は2015年夏に逝去された山本順也氏についてのエッセイです(初出は1990年の週刊朝日)。山本氏は萩尾先生が講談社でなかなか原稿が採用されない時期に紹介されて小学館へ原稿へもっていくと、これまでのものも全部持ってくるよう言った方です。『少女コミック』の時代、『プチフラワー』の時代、ずっと直接担当されていたわけではありませんが、近くで見守ってこられました。直接的なことはあまり言わない山本氏が萩尾先生にとって、どんな存在であったかが書かれています。最後の「三度の鐘」についてお話しをうかがってみたいものです。
この文庫版用に追加されたあとがき「道のり」も山本氏とのお話しです。「いやあ、違うよ。」と笑いながら、お腹の中で「わかってんだろう?」と言ってるような、そしてそれを萩尾先生も充分わかってる。そんなお二人のやりとりが書かれていて、思わず私もほほえんでしまいました。そしてこの出来事が「トーマの心臓」の不人気(今では信じがたい)に苦しんでいた萩尾先生へ、どれほどの励ましになったことかと思うと、胸が詰まります。
この時期に出された本に、このエッセイを追加されたこと、そしてこの文庫版のあとがき。「今、わたしは、ここにいる。」と過去のエッセイ集をあらためて出したあとがきにそう書かれているのです。是非、読んでみてください。
尚、表紙のイラストは「あぶない未来少年」の予告カットです。『ファンタジーDX』1994年6月号に掲載された、7月号の予告です(by 図書の家)。