作品目録

スロー・ダウン

 

初出誌
「プチフラワー」1985年1月号(1985.1.1) p137~152(16p)
登場人物
ルイ・ネル:15~18歳くらいと想定される。ある実験の被験者。
所長・所長の妻:ある心理学研究所の主宰者。ある実験に携わる
ルイのガールフレンド
あらすじ
微妙にSF的なシチュエーションの短編。ルイは、ボランティアかアルバイトとして、「実験」に参加。視覚、聴覚、触覚を遮断された状態で、地下室に隔離され、一人で過ごさなければならない。(しかも、外からは研究者たちが、ルイを完全にモニタリングしている)時間が過ぎるにつれ、ルイの意識は次第に不確かなものとなり、精神的な混乱に陥っていく。そこに、食事を受け取るボックスから、誰かの手が一瞬垣間見え、思わず強くその手をつかんでしまうというアクシデントが…
コメント
2010年6月3日に「男性6人、520日隔離 露、火星飛行へ模擬実験」というニュースが流れました。また、2015年12月28日に「JAXAが一般公募「閉鎖環境に2週間」 報酬は38万円」というニュースも流れました。それを見て、あぁ、ついに日本にも「スロー・ダウン」の時代がきた、と思いました。
萩尾先生は感覚遮断実験後に生じる狂気について描きたかったわけではなく、あくまでも「愛はどこに?」というようなニュアンスで描きたかったのではないかと思います。

2015.12.28

収録書籍
萩尾望都作品集・第二期 第9巻 半神

萩尾望都作品集・第2期 9 半神 小学館 1985.3

A-A’―SF傑作選


A-A’―SF傑作選 小学館叢書 1995.9

半神


半神 小学館文庫(新版) 1996.9

ひきこもり図書館


ひきこもり図書館 2021.2.5 p189~206

投稿
初めに読んだとき、あ、これは「心理学」の教科書に出てくる「感覚剥奪実験」だあ。萩尾先生は面白くてユニークな題材をそういう学問の世界から漫画の世界にフィットさせるのが素晴らしくうまいなあと思った。でも最近、あるきっかけがあって読み直したら、ものすごい不安感に襲われた。学問上(あるは私たちの常識)では、「世界」という揺るがないたった一つの現実がデフォルトとしてあり、「人間」はそこから隔離されることで簡単にはっきりした「自己」が解体してしまう、ととらえられている。(実際過去に行われた実験ではほとんどの人が1日でギブ。3日もったのが最長記録らしい)この見方で行くと、変則的で、もろいのが「意識」とか「精神」ということになる。極端にいえば、「世界」が「実」で、「精神」は「虚」なのだ。しかし後半一転して 、むしろ「世界」の方が怪しくあやふやに・・・ならば、「真実」は一体どこに?と考えさせられる作品だ。

2004.8.26 へびいちごさん

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ばらの花びん