作品目録

天使の擬態

 

初出誌
「プチフラワー」1984年11月号(1984.11.1) p7~56(50p)
登場人物
有栖川次子:女子大の1年生
織田四郎:次子の大学に来た新米の生物教師。ヨーゼフの教会に下宿している
ヨーゼフ:元医者の神父
あらすじ
秋の夜、雨降りの中、鎌倉海岸。次子は睡眠薬を飲んで自殺を図ろうとするが、たまたま犬の散歩で通りかかった四郎が、それを発見。連れ帰って、ヨーゼフとともに介抱し、ことなきを得た。
助けられた次子は、急に死ぬ気もさめ、感謝することもなく帰ろうとする。四郎は次子の態度を見て「本気の自殺ならひとのいないとこでやれ」「助けなきゃよかった。」と罵声を浴びせ、ケンカ別れになる。
就任する女子大の文化祭にいった四郎は、偶然次子と再会、自然に振る舞う様子に一安心するが、自殺未遂のことは気にかかっている。
教壇に立った一日目、またも偶然、次子と同じ服を着ていたため、周囲の学生たちに、その仲をされ二人の間に険悪なムードが……。しかし、四郎は次子と「清く正しい師弟関係」でいることを約束。「進化論」について、語り合うことで、次子の心を開かせようとする。
そんな四郎に対し次子は、「人間には翼が生えないのか?」という疑問を繰り返しぶつける。次子は重い傷を心に隠していたのだ。前の彼と別れたこと、そして……。
コメント
萩尾先生はもともと日本を舞台をした作品はあまり多くないのですが、この頃からぽつぽつと描かれています。今回は現代、それも女子大を舞台という比較的ストレートな物語です。恋愛のお話でもあるのですが、これは「母性」にまつわる物語です。母性をそのままではなく、生物学に絡めて科学的なそぶりを見せながら、ベタベタしないよう気を遣いつつ描いている、そんな印象をもちました。
主人公はおそらく横浜の山手あたりの高級住宅地に自宅があり、鎌倉近くの学校に通っているのかなと思います。シロウの下宿は鎌倉、由比ヶ浜あたりかなと想像しながら読むと楽しいです。萩尾先生の作品でそういうことはあまり出来ないので…。

2011.10.28

収録書籍
萩尾望都作品集・第二期 第16巻 エッグ・スタンド

萩尾望都作品集・第2期 16 エッグ・スタンド 小学館 1985.1

訪問者


訪問者 小学館文庫(新版) 1995.9

萩尾望都パーフェクトセレクション 9 半神

萩尾望都Perfect Selection 9 半神 小学館 2008.3.2

投稿
日本を舞台にした、シリアス系(先生の作品の常として随所に笑いどころはありますが)の作品です。
次子は、次女として、自立した女を目指しているように見えます(例によって、姉は女らしく良妻賢母なんでしょう)。気が強く、友人はいるがあまりベタベタしたつき合い方はしない、ちょっと離れたポジションが好きなようです。しかし、人間としての軸の部分で非常に傷つきやすい内面性を持っています。
四郎は短気な関西人で、次子とはすったもんだを起こしやすいタイプ。けれど内面的には「人の死」というものの重さをよく知っています。だからこそ、決してそりが合わない次子に必死でアプローチするのでしょう。それにしても不器用ですね(進化論オンリー過ぎる)。
萩尾先生の作品には、女性の一人称で語られるものがわりと少ないです。むしろ、「少年の世界」が軸になる作品の方がすぐ浮かんでくるのではないでしょうか(その事情については何度か語られていますが)。
しかしだからといって、女性を描くことを回避されているのか、といえばそうではありません。この作品も含めて「女性」という存在のあり方について真っ向から取り組んでいるものは少なくありません。
この作品では、私たち男性には想像もつかない「女性・母性」というきつい枷をはめられてある宿命、そしてそれゆえ追わなければならない「罪」の責め苦が見据えられています(何気ない日常的な、幸福な家庭の会話を、どんなに辛い思いで聞いている女性がいることでしょう)。それゆえに、次子は「翼」を求め、「清浄」で自由な存在、「天使」にあこがれるのでしょう。
さらに、四郎と次子の関係は「メッシュ」と「ミロン」の関係にも近いものがあるのではないでしょうか。もし「メッシュ」の二人の間が「異性」だったら、という点で非常に興味深い。ただ、たとえそうであったとしても「結婚」という制度に取り込まれてしまうことはないと思うんですけど。

Qサク

入手しやすい本作品収録の単行本 訪問者

訪問者 小学館文庫(新版) 1995.9

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参考情報
翻訳:英語

ハーバル・ビューティ