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萩尾望都SF原画展 兵庫会場へ行ってきました

神戸ゆかりの美術館2017年9月9日に萩尾望都SF原画展兵庫会場、神戸ゆかりの美術館に行ってまいりました。オープン日は天気もよく、少し汗ばむような日でした。この日はオープニング記念イベントとして同じ建物の5Fにあるオルビスホールで森見登美彦先生との対談が開かれました。→(萩尾望都先生と森見登美彦先生の対談イベントに行ってきました)
関西で萩尾先生の原画展が開かれたのは、私が知る限り「残酷な神が支配する」展が宝塚市の手塚治虫記念館で開かれて以来ではないかと思います。

神戸ゆかりの美術館神戸ゆかりの美術館は六甲ライナーのアイランドセンター駅からすぐ。東京方面から行く方は新神戸駅からですと2回乗り換えないとならないので、新大阪で降りてJR東海道山陽本線の快速か新快速で住吉まで行って乗り換えた方が楽です。京阪神在住の方からみても、神戸中心部からは少しだけ離れた感じのようです。都内で例えるとお台場にあるイメージ。美術館の入っている建物は複合施設になっているので少しわかりにくいのですが、正面からは美術館は右手奥から入ります。神戸ファッション美術館と併設されています。一方、駅からの直接の通路からは3階に出るので、一番奥側のエスカレーターで降りると美術館の入口に着きます。

燃える阿修羅王レッド星

入口に燃える阿修羅とレッド星の写真撮影スペースがあります。新潟で登場したこの大がかりな造形物は神戸にも設置されていました。兵庫会場は原画の追加は新潟からはありませんが、東京からは相当増えています。初期短編から少女マンガ界初の本格SF「11人いる!」、長編「スターレッド」、少年チャンピオンに連載された「百億の昼と千億の夜」、S-Fマガジンに掲載された「銀の三角」、「マージナル」といった萩尾先生の代表的なSFを中心に、初期から最近まで萩尾作品の原画が見られる上、早川書房ほかたくさんの本のイラストに使われた原画が展示されています。

新潟との違いはまず、タペストリーが4点ほど増えて更に華やかになりました。入口にレッド星が手前と奥に並んでいるので遠近感があって、見栄えがいいですね。大きな会場で天井が高いので、大型のタペストリーが更に映えます。

新潟ではあった「百億の昼と千億の夜」のネームのボードが二つから一つになっていましたが、ネームのすぐ近くの椅子に同じページの本のコピーがラミネートされておいてあり「お手にとってお読み下さい」と記載されていて、ネームと見比べることが出来ます。

二次資料は新潟会場とほぼ同じでした。萩尾先生のカバーイラストの本、掲載誌、CD、LPなどがガラスケース三つに分かれて展示されていました。「11人いる!」のプロットと「百億の昼と千億の夜」の大量のネームは小さなケースにおさめられています。

吉祥寺は前後期とあったので、狭い会場をいかに有効に使うのか、作品の単位ではまとまっていますが、その中で原画の配置もよく考えられ工夫がされていたと思います。新潟ではスペースは広くなりましたが、更に凝った配列になっていました。兵庫会場ではそこが素直な感じになったように思います。作品内での章立てに沿った形で並べられていました。

萩尾望都SF原画展は3ヶ所目ですが、大型絵画も展示できる美術館は初めてです。油絵等の絵画作品と同じような照明なので、これまでの2会場より会場内が少し暗いように感じました。マンガの原画は線が細いので、もう少し明るい方が助かります。

尚、この会場では展示されている原画のリストが配布されています。入口においてあります。これのおかげで今回は3時間で済みました。ありがたかったです。この原画展は実質的に図録が「萩尾望都SFアートワークス」なのですが、どんどん原画が増えてしまって、こちらに全部収められているわけではないので、気になる方は手にとってご覧ください。→萩尾望都SF原画展 兵庫会場 展示物一覧

また、この会場から販売物が増えました。Tシャツが2点、クリアファイル2種セット1点、ポスター2点、ポストカードセット1点です。これまでのものと合わせると、Tシャツが4点、トートバッグ1点、ポスター2点、クリアファイル2種セット4点、ポストカードセット2点、複製原画3点となります。→萩尾望都SF原画展 販売物一覧

同じ建物内にホテルがあり、そこに併設されたレストランがありますし、アイランドセンター駅までの間に喫茶店などもありますので、少し疲れたら休んでまた見ることもできます。再入場の際には入場日の判が押された入場券の半券を受付でお見せください。

兵庫会場の会期は9月9日から11月5日まで。充分ありますが、気づくと終わってる、ということのないよう、お気をつけ下さい。

萩尾望都SF原画展 兵庫会場 展示物一覧
萩尾望都SF原画展 販売物一覧
萩尾望都SF原画展公式サイト公式twitter @hagiomoto_SF公式Facebookページ

2017.09.18 23:52 | イベント

萩尾望都先生と森見登美彦先生の対談イベントに行ってきました

萩尾望都×森見登美彦対談イベント2017年9月9日(土)14:00から萩尾望都先生と森見登美彦先生の対談が神戸ゆかりの美術館の上のオルビスホールで開かれました。13:15の開場時には長蛇の列になっていました。宇宙船のような曲線を描くオルビスホールですが、入口には熱い空気がたまっていました。ファンの熱気のせいもあったでしょう。今回の対談は追って会場内に設置されたテレビで編集されたものが流されるそうなので、主に萩尾望都先生の発言をピックアップしてレポートします。メモと記憶で再構成していますので間違いがあるかもしれません。

このお二人の対談は初めてではありませんが、こういう場所ではないと思います。森見先生もおっとりタイプで、萩尾先生の対談としてはとても珍しく、萩尾先生が引っ張っていく形です。いつもは対談のお相手の方がお話をされる量が多いのですが、今回は萩尾先生の方がお話をされていました。でも萩尾先生が時折森見先生に丸投げしていて、ひどいなーと思いましたが(笑)会場は爆笑でした。お二人ともおっとりした感じで上品な対談でした。

司会進行は甲南大学准教授の増田のぞみ先生。お若いけれど関西の少女マンガ研究を牽引する論客のお一人として知られた方です。図版を提示しながら、お話を進めるという、たいへんなお仕事を難なくこなされていらっしゃってました。

(まずは「萩尾望都SF原画展」が開かれた経緯を萩尾先生から。)
「萩尾望都SFアートワークス」の出版からこの原画展を開くことになりました。河出書房の編集者がこのイラスト集の企画をもってきて、最初は早川書房に描いた表紙カバーのイラストなど、あまり知られていないイラストを集めようという話だったのが、どんどん話が大きくなっていって、たくさんのイラストを収録することになってしまいました。私はずっと小学館で仕事をしているので、小学館の編集者からなぜこれをうちで出さずに河出が出すんだと怒られたので、謝りました。...河出の編集者が(会場笑)。

この原画展はまず昨年吉祥寺で開かれました。新潟では全部黒いパネルを貼って、そこに原画を展示していたそうです。自分は吉祥寺も新潟も見に行ってないので、昨日の内覧会で初めて見ました。いろいろなものがぶらさがっていたりしてほえーっとなっていました(※注:タペストリーなどのことだと思います)。この頃はデッサンがちゃんとしていたなーなんて思いながら見てました(会場笑)。吉祥寺の会場に比べると新潟は広いので、原画の点数を増やすと言われ、ひえー聞いてないよと思ったり。コピー(複製原画)を追加したりしました。


スター・レッド(「お気に入りのイラストは?」と聞かれて、スター・レッドのレッド星のイラストが表示されました。)

「スター・レッド」は急に企画が決まった作品です。3日後に予告カット入れて、そのあとすぐに表紙を描いてと言われて、そんな無茶なという仕事だったのですが、お世話になっている編集者だったので(注:山本順也氏です)引き受けました。本当に見切り発車で始めたのはこの作品だけです。火星人の女の子のことを考えて、赤い目、白い髪かなと思って描きました。ちょうどその頃SF大会があって、光瀬龍先生にお会いしたので「今度、火星の話を描くんです」と言ったら「火星人はみんな赤い目、白い髪になるんだよね。」と言われて、「え?なぜ知ってるの?まさか見られちゃったの?」とびっくりしました(笑)。

1回目のネームをつくった段階でその先は何も決まっていませんでした。でも不思議と重要なキャラクターは1回目にほとんど登場しています。エルグを描いたとき、そんなに重要なキャラクターになるとは思っていなかったのですが、描いているうちにセイに「火星に連れて行ってあげようか?」と言い出したので、じゃあ彼はどこから来たんだろうと考え始めて、そこからキャラクター設定が決まって重要なキャラクターになりました。

バルバラ異界
(気に入ったキャラクターの話の続き。「バルバラ異界」の青葉とキリヤの絵が登場しました。)
もう一つ産みの苦しみを味わった作品として「バルバラ異界」があります。最初は4回くらいの連載で終わる小ぶりの作品のつもりでした。1回目のネームを描いた途端に「何か違う」と思ったんです。でも何が違うのかわからない。このまま描き続けていくと、必ず行き詰まると思いました。1回目の絵を描きながら、次のネームをつくらなくてはとスケッチブックにいたずら描きをしていると、キリヤが出て来ました。この子が「自分は渡会の息子だ」と主張して譲らないので、2回目からのお話を、それまで考えていたものと全然違うものにして描き始めました。

(「11人いる!」のプロットの話)
この人は今、何パーセントくらい焦っているんだろうと考えながらプロットに書き込んで行きます。すると、その感情の動きに合わせて、表情を描くことができます。30パーセントだから汗は二つ、とか。

(森見先生からSF原画展の感想を)
「西風のことば」が気になりました。いま僕は奈良に住んでいるので、古代のような未来のような絵ですね。

(萩尾先生がそれに対して)
「西風のことば」は丹後に行って帰ってきてから描いたものです。丹後では遺跡が発掘されていました。

(今回の原画展に文庫のカバーが多い話)
カバーは印刷がきれいなので、結構細かく描いても見える。それならどんなふうに描いても良いのではないかと思って描きました。

(森見先生との出会いの話)
(森見先生)
新潮社のはなれのような日本家屋で対談したのが初対面です。「四畳半王国見聞録」の刊行記念で編集者と僕とで相談して萩尾先生に対談をお願いしました。

(萩尾先生)
対談などは呼ばれたら時間が許す限り行くのですが、行ったらすごいイケメンが座ってて、あらどうしましょうと思いました(会場笑)。

森見作品では「ペンギン・ハイウェイ」が好きです(※あとがきを書かれてます)。言葉のリズムに音楽的なものを感じます。この言葉のリズムってなんだろう?ワルツかな?と19世紀のウィーンが浮かんできました。ヨハン・シュトラウスとか、品の良いイメージの音楽が聞こえてきますと。

(森見先生のお返事)
自分はよく大正から昭和初期の作家の作品を読むので、彼らのリズムに影響されているのかもしれません。

(森見先生。萩尾作品との出会いについて)
自分が高校生のとき、お母さんが入院しました。このとき、叔母さんがお母さんに差し入れした本が「11人いる!」だったんです。これを横から自分が取っていって読んだのが最初です。大学生になり、「トーマの心臓」や「ポーの一族」を読みました。四畳半の部屋で読んだ「トーマの心臓」が自分の中ではすごく印象に残ってます。

(萩尾先生のSFとの出会いのお話)
小学生のとき、学級文庫や学校の図書館でギリシャ神話などを読んでいました。その後、少年少女SF全集が出てきます(※1956年頃から少年少女向けのSF小説全集が各種出始めます)。それを読んで現実とファンタジーの間をいったりきたりする感覚にひたっていました。

(ここから萩尾先生のSF談義が始まります。全部萩尾先生がコメントを述べられているのですが、書名をメモするので精一杯でした)

アン・レッキー「叛逆航路」
オーソンスコット・カード「道を視る少年」
ジョー・ホールドマン「終わりなき戦い」
チャイナ・ミエヴィル「言語都市」「都市と都市」
フレドリック・ブラウン「火星人ゴーホーム」
レイ・ブラッドベリ「華氏451度」
小松左京「日本沈没」...この本が出た頃、目を悪くしてしまって、マネージャーの城さんに朗読をしてもらいました。でも城さんは私が寝ている間に自分は一人で読み終わってしまって、次の日、続きを読んでと頼んでも、もう読んじゃったからと読んでくれません。「それで、日本はどうなったの?」と聞くと「沈没しちゃったよ?」と。ひどいでしょう?(会場笑)。

筒井康隆「霊長類、南へ」
A・E・ヴァンヴォークト「宇宙船ビーグル号の冒険」
アーサー・C・クラーク「幼年期の終わり」
ハインライン「異星の客」
エドガー・ライス・バローズ「火星のプリンセス」「火星の大元帥カーター」
アーシュラ・K・ル・グウィン「闇の左手」...この作品では男女が周期的に入れ替わります。これが「11人いる!」のヒントになりました。

(森見登美彦先生のオススメSF)
藤子・F・不二雄「ドラえもん」
フィリップ・K・ディック「高い塔の男」
スタニスワフ・レム「ソラリス」...「ソラリス」と「ペンギン・ハイウェイ」の関係についてお話をされてました。


(「ピアリス」の話。「ピアリス」を書くことになった経緯、中断してしまった経緯、そして今回出版することになった経緯をお話をになりました。「ピアリス」の最後のインタビューをご覧ください。)
木下司というペンネームを使っていたのは、たぶん文章を書くのが恥ずかしかったんでしょう。
(これに対して森見先生)
文章を読めば萩尾さんだなってわかります。もしくはものすごい萩尾マニアが書いた作品だと思ったんじゃないかと。萩尾さんの他の漫画といろいろつながっていますよね。

(「美しの神の伝え」の話)
描きたい話がたくさんあるのに、絵を描くのが遅いので、おいつかないんです。SFの短編小説として書かせてもらったものを集めたものがこの本です。文章を書くのは頭の中に浮かんだイメージを文章に落とし込むので必死です。
「マージナル」はいい男祭り、「美しの神の伝え」は美少年祭り。いい男を描くのは楽しいです。何を着せよう?どこで脱がそうかと考えて楽しんでいます。

(森見先生の「美しの神の伝え」に対する感想)
昔、ファンタジーノベル大賞を受賞した北野勇作さんや佐藤茂さんの作品を思い起こします。マンガだからこそ出来る表現、文字だからこそ出来る表現があります。萩尾望都先生のはイメージを文字にしているけれど、僕はビジュアルと言葉が混じり合った文章を書いていると思う。言葉の要素が強いです。

(これに対して萩尾先生が)
小説家の文章を読んでいると、言葉の力がすごく入ってくることがある。それはすごい力となることがあります。

(SFだからこそ書けるものは何か?との質問に萩尾先生)
SFは物語を自由に書けるので解放されます。私たちが生きているこの世界の他にも世界のがあるということに救いがあります。宇宙だけでなくお化けなんかも含めてです。ここだけでないどこかがある。そういうものがあることで、気持ちが楽になります。

(今にここにある現実を描くこと、ここではないどこかの世界を描くことはどうバランスをとっておられるのでしょうか?という質問。すごく悩んで萩尾望都先生は森見先生に最初丸投げしていました。森見さんどうですか?と)
僕の作品ではどのくらい我々の世界(今にここにある現実の世界)のルールを入れるかどうかは、作品ごとに決まります。

(萩尾先生は森見先生に答えさせている間、じっと考えていておもむろに)
SFでは時折超能力者が出てきますが、超能力者が何でもできることになると、おもしろくなくなります。何でもできないようにしなければと考えます。ファンタジーの世界は何でもできるけれど、何でもできないようにしないとつまらないです。

(舞台やドラマ、映画など別のメディアのお話)
「ポーの一族」がこの近くの宝塚で舞台になります。演出の小池修一郎さんとはずっと前からの知り合いで、会った最初のときから「ポーの一族」をやりたいと言われていて、「どうぞどうぞ、お任せします」と言ってあります。ですが、いろいろと難しいようで、なかなかうまくいきませんでした。もう小池さんが生きている間は無理かしら?と思っていたら、話が進んだんです。でも、昨年「ポーの一族」の続編を描いて発表しました。今回宝塚の舞台ができることになったのは「ポーの一族」の続編に便乗したわけではないと皆さんに言ってくださいね、と小池さんに言われています。

(スタジオライフなど、舞台化された作品がありますが、ご自分の作品が舞台になることについて、どう思われますか?)
生身の役者さんがやるのを、一観客としておもしろがっています。マンガの世界が動いている、紙の上で描いたものが立体になっていることに驚いています。マンガを描くとき、地面にいるときは舞台を思い描いていると作りやすいです。俯瞰の目で描くときは、映画的なイメージが出てきます。

(作品が舞台や映画、テレビなどになるとき、注文などされますか?)
一度OKしたら、何も言わないことにしています。お申し出をお断りすることもありますが、断っても断っても何度も何度もアプローチされて、面倒くさくなってOKしたら、思いの外うまくいった作品が「イグアナの娘」です。
それから、企画はあがっても、ものになる前にポシャることはよくあります。

(最近の活動について)
『月刊YOU』に「王妃マルゴ」を描いています。アシスタントさんたちに「いつ結婚するの?いつ大人になるの?と」言われてましたが、ようやく結婚して大人になりました。
来年は「ポーの一族」の続きを描きたいです(拍手が起きる)。
あと、森見さんと恩田陸さんと3人で日本ファンタジーノベル大賞の選考委員をやっていて、選考会が来月あります。

(質疑応答。最近のSFと古典的なSFの違いについて。萩尾先生はまたここでも答えにつまって最初は森見先生に丸投げします 笑)。
僕たちの世代は上の世代のおかげで「ドラえもん」のような作品たちにSFはすでに取り込まれていて、自然と触れることができていた。でも最近のSFは専門家が入ってきて、非常に高度なものになっているように思えます。

(萩尾先生がお答えになります)
最近のSFのテーマは戦争とコミュニケーションのことが多くて、敵をやっつけて終わりというものではなく、話の通じない相手とどのようにコミュニケーションをとるか、ということをテーマにしています。ハイラインの初期の作品などにはコンタクト系も多いのですが、かつて手塚治虫先生が敵の方の背景をていねいに描いたことが大事だったのだなとわかります。

(ここで終わりだったと思います。)

2017.09.10 18:16 | イベント

萩尾望都SF原画展 新潟会場に行ってきました。

萩尾望都SF原画展12017年7月15日から始まっている萩尾望都SF原画展 新潟会場にようやく行ってきました。
新潟会場展示一覧

8月11日お盆の初日、東京駅の新幹線乗り場は大変混雑しておりました。指定席をとっておいてよかった。そこから2時間強で新潟駅です。わりとあっという間です。

会場である新潟市マンガ・アニメ情報館は新潟駅から徒歩15分、万代口のバスターミナルからバスでも行ける(会場アクセス方法詳細)とありますが、私は東京から日帰りなので、とにかく時間と体力が惜しくてタクシーで行きました。650円。但し、運転手さんは「新潟市マンガ・アニメ情報館」では場所がわかりませんでしたので、住所を言いました。ナビがついてて助かりました。田舎のタクシーでナビがついてない時もあるので困りますが、新潟駅近辺は都会ですから大丈夫でした。

入場料900円。吉祥寺の100円が普通ではないので、多分これは特に高くないと思います。当日に限り再入場可なので、入場券は入場後なくさないでください。吉祥寺と違い大きな荷物を預けるロッカーはありませんが、受付の方にお願いすれば預けられます。番号札を受け取ってください。


全体的に黒で統一された展示室。入場してまず最初の部屋は3枚のモノクロの大きなタペストリーがありました。右が「夢狩りの夕べ」(「銀の三角」第3部7章『S-Fマガジン』1982年6月号。白泉社文庫p300~301)、中央が「ミューパントーの歌」(「銀の三角」第1部3章『S-Fマガジン』1981年2月号。白泉社文庫p52~53)、左が「兇天使」(早川書房 1986.6.30。下巻p250~251)です。

その次の部屋が写真撮影可で、右から「百億の昼と千億の夜」の阿修羅秀作イラスト(「萩尾望都自選複製原画集」にモノクロで収録。今回追加)、燃える阿修羅、レッド星、「マージナル」のキラです。燃える阿修羅の画像をクリックしていただくと、動画を見ることが出来ます。

萩尾望都SF原画展萩尾望都SF原画展
萩尾望都SF原画展20170811e.jpg

ここで一度入口付近に戻り、展示室に入り直します。

ChapterI 1970s SF初期
あそび玉
6月の声
精霊狩り
ドアの中の私の息子
みんなでお茶を
キャベツ畑の遺産相続人
1ページファンタジア
ユニコーンの夢
11人いる!→原画16点、複製原画24点とプロット追加
スター・レッド→複製画24点追加
追憶
左利きのイザン→原画16点追加
フレア・スター・ペティコート
月蝕→原画12点追加

「11人いる!」が大量です。扉絵やカバーなどカラーの名品が多い作品なので、吉祥寺では本編からの原画は6点でしたが、16ページも追加されています。ラストのダダからフロルへのプロポーズのシーンあたりが入っていて「ほぅ...」っとしました。また、新潟展では複製画が大量に展示されています。「11人いる!」から「東の地平・西の永遠」小学館文庫のp230~241,p272~283の24ページ。プロットは2ページの小さいものでしたが、とても貴重です。萩尾先生がどうやって物語の展開や起伏を考えておられるのか、その一端がわかります。
「スター・レッド」にも複製画が追加されています。小学館文庫のp180~191,p400~412の24ページ。
「左利きのイザン」全16ページ分の原画が追加されています。
「月蝕」全12ページ分追加。これは『スターログ』というアメリカのSF雑誌の日本語版別冊『バンピレラ』に載ったものなので、左開きです。なので展示された時にも読み方に注意が必要です。


ChapterII 1970s・1980s コラボレーション
百億の昼と千億の夜→原画16枚、複製画24枚、ネーム追加
ブラッドベリ傑作選
霧笛→原画8点追加
ウは宇宙船のウ/びっくり箱/集会/ぼくの地下室へおいで
文庫カバーイラスト
薔薇の荘園/ドラゴンになった青年/妖精の王国/闇の公子/花狩人/派遣軍還る/光の王/魔王子シリーズ/兇天使/惑乱の公子/猫柳ヨウレの冒険/あいつらの悲歌/魔道師の杖/∀ガンダム
星の光と伝説(LPジャケット)
∀ガンダム
大予言と奇跡(ペーパームーン)
精霊の森→原画追加
ピアリス→原画24点追加

このコーナーではまず「百億の昼と千億の夜」の大増量が目に付きます。ネームはどさっと大量のものでした。原画は新書版のp110~123の阿修羅王と悉達多の対話部分、複製画はp98~109とp314~325の24ページです。
「霧笛」の原画が追加されています。一番盛り上がるところ8ページ分です。
「精霊の森」はカラー、B2サイズでとても大きいです。 今回初めて拝見した絵です。角川書店「かぎりなく死に近い生(WONDER Xシリーズ)という本の「ユングの臨死体験」という項目の中に使用されていたイラストです。そこにタイトルはありませんでした。今回の出展にあたりタイトルを決めたのか、初めて発表されたのか、いずれかだと思います。

本が刊行されたばかりの「ピアリス」はそもそもこの原画展で挿絵を展示したことから始まったものです。今回の原画展で追加されたものを含めると、すべての絵が展示されていました。


ChapterIII 1980s・1990s SF中期
銀の三角→複製画36ページ追加
A-Aダッシュ→原画4点追加
4/4カトルカース→原画6点追加
X+Y→原画5点追加
緑柱石(ベリル)
モザイク・ラセン
ハーバル・ビューティ
マージナル→複製画24点追加
海のアリア
あぶない丘の上
いたずららくがき→原画8点追加
西風のことば


「銀の三角」の複製画36点は白泉社文庫「銀の三角」第一部一章「いのりのあさ」からp8~19、第二部四章「高原幻想」からp152~163、第二部六章「歪んだモザイク」からp186~197です。
「いたずららくがき」の全原画が追加されています。刊行されたばかりの小説集「美しの神の伝え」に収録されている作品です。
「A-Aダッシュ」原画4点、「4/4カトルカース」原画6点が追加。「銀の三角」は36ページ、「マージナル」は複製画が24ページ追加。


ChapterIV 2000s SF近作
バルバラ異界
トレマリスの魔術師
宇宙船運転免許証
揺れる世界
なのはな→原画2点追加
プルート夫人→原画2点追加
雨の夜―ウラノス伯爵→原画2点追加
サロメ20XX→原画2点追加
AWAY


「なのはな」に収録されている作品から「なのはな」「プルート夫人」「雨の夜」「サロメ20XX」から2点ずつ原画が追加されています。

他に二次資料の入った大きなガラス棚が二つありました。吉祥寺の時には出ていなかったポーランド語の「銀の三角」がありました。日本に5冊くらいしか入ってないと思うんですけど(笑)。

また、展示室を出たところでは吉祥寺同様グッズを販売しています。

当日に限り再入場可なので、どこかでお茶をしてまた再入場してもいいかもしれません。同じ建物(BP2)の同じフロアにはカプリチョーザとフレッシュネスバーガー、2Fには食事が出来るお店が2店舗、お向かいのビルボードプレイスの1Fにはカフェがあります。


私は吉祥寺に通い詰めたので、どうしても吉祥寺との違いに目が行ってしまいますが、初めて行かれる方も多いと思います。原画をじっくり見ているだけで1時間はかかります。私なんか5時間くらいいました。とても疲れましたが、充実していました。


2017年7月15日(土)~9月3日(日)
会場:新潟市マンガ・アニメ情報館
所在地:新潟県新潟市中央区八千代 2-5-7 万代シテイBP2 1階
開館時間:11:00~19:00(土・日・祝は10:00~)

2017.08.14 14:27 | イベント

女子美術大学オープンキャンパス特別講演会2017のレポート

女子美20170717女子美術大学オープンキャンパス
萩尾望都先生特別講演
2017年7月16日(日)15:00~16:00

毎年7月に開かれるオープンキャンパスの特別講演です。秋の特別講義と異なり、学生さんの授業ではありません。いつも何かテーマが決まっているのに、今回はあえてなにもなし。「ポーの一族~春の夢~」が出たばかりだから、お題は「ポーの一族」。
(いつものことですが、メモと記憶から書き起こしています。抜けは多々あると思いますが大間違いはないと思います。)

1.「ポーの一族 春の夢」

続編を描くことになった経緯について
まさか描くとは思っていませんでした。暇な時に妄想していたのですが、絵がどんどん変わっているのでお話はあっても描けないなと思っていたところに、小学館から『月刊フラワーズ』15周年記念に何か読み切り作品を描いて欲しいと言われました。その際「ポーの一族」の小さな番外編はどうかと思ったんです。その前に夢枕漠さんがお会いする度に「僕「ポーの一族」の続きが読みたいな」とおっしゃって下さるので、漠さんが読んで下さるならと、後押しになりました。

それで編集部に「ポーの一族」の短いのを描きますと言いました。エドガーとアランが家を借りて住んでいたら、女の子がやってきて、ちょっとその子と知り合って別れてまたどこかへ行くというような簡単な話を考えていたのです。その子はどこから来たのだろうというふうに考えていると、ドイツから来たらしい、難民のようだ、と。第二次世界大戦のことを調べ始めたら段々はまってしまいました。
編集さんに「16ページと言われていたのですが、24ページにしてください。」「いいですよ。」「すみません、30にしてください。」「すみません、これが最後です。40にしてください。」40で入らなかったもので「第1話にしてください。」となりました。

物語の発想は40年間暖めていたのか?
「描いて下さい」と言われて、じゃあ描こうかなと思って、禁断の「ポーの一族」の扉を開けたら、するすると出てきました。描いていて、とても楽しかった。

①p4~5:エドガーが女の子と出会うシーン
p04-05.pngエドガーが女の子と出会うところから始まります。舞台ですが、田舎で、街の近くでと考えました。リバプールの近くにアングルシーという島がありました。島ですが橋でつながっています。ここは鉄道の線路も走っていて、ここは海軍基地や空軍基地もあるわりにはへんぴな場所です。時代設定をあの時代にしたのは、エドガーやアランが戦争中に何をしていたのかをずっと考えていたからです。

「春の夢」というタイトルが決まったのは、笠井叡さんの踊りを観に行ったときです。ミュラーの詩にシューベルトが曲をつけた「冬の旅」という曲で、その中に「冬に春の夢を見ている私をあなたは笑うだろう」という一節があり、「春の夢」にしました。

ブランカの弟のノアはレオくん(萩尾家の猫。作品にもなっている)みたいな子を想像して描きました。

②p6~7:エドガーとアランの家
p06-07.pngチェスターなどでよく見られる建物です。アングルシー島の駅の公舎を参考にして描きました。

③p10~11:オットマー宅の台所の様子
p11-12.pngこの時代に何で火をおこしていたんだろうと考えました、ガスは配給されていた時代ですが、島なのであるのかどうか。電話や電気は来ていましたが、ガスについてはわかりませんでした。イギリス在住のお友達に調べてもらったりしました。

古いレコードを聴いているところに女の子が訪ねてきます。手巻きのレコードプレイヤーを聞いていますが、当時のプレイヤーは5分位しかもたないので、オペラなどどうしたのだろうと思ったら、5分かけたら、またまいてを繰り返していたそうです。

④p28~29:シューベルトの歌を歌うブランカとエドガー
p28-29.pngブランカはドイツから難民としてきました。イギリス人から見たら敵性国民です。ドイツ語を喋らないようにして暮らしています。ノアのような自由奔放な弟がいて、両親と離れて自分が頑張らないとならないと、いろいろ我慢していました。でもシューベルトの歌をハーモニーで歌うことで、貯め込んでいた思いを一気に出しています。音楽は人の心を動かしますね。

⑤p48~49:エドガーがファルカを呼ぶシーン
p48-49.pngファルカはスラブ系の吸血鬼で、1925年の万博でアランが病気になったときに治してくれたのですが、なにやら下心があるんです。このキャラクターは、イギリスにはポーの一族がいるけれど、他の国の吸血鬼はどうなっているんだろうと思いました。ポーランドとか中国とか、調べてみると世界各地に吸血鬼伝説がありました。ポーランド(スラブ系)が好きだったので、スラブ系の吸血鬼を出してみました。(日本はどうかという問いに先生はちょっと答えられないと...次の構想に関係あるのかな?)

⑥p60~61:ファルカが登場するシーン
p60-61.pngこの人は前にレオパードを飼っていて死なれてしまったので、レオパードのプリント柄を着て首にかけています。レオパードのプリント柄はこのちょっと後くらいに流行るんですけれども、それまであまり着ている人がいなかったので、ちょっとオシャレかなと思って着せました。


⑦p66~67:エドガーの過去の話
p66-67.pngエドガーの過去のことが出てきます。ファルカもいろいろ調べていて、どこかに御大がいて、直系の子どもがいるという話だけどあんただろう、村があるのだったら、などいろいろ情報交換をやっています。

⑧p74~75:クロエ登場
p74-75.pngチェスターの街に今のポーの村のボス、クロエがやってきます。クロエという名前はその服のブランドが好きなので。この歳になると、新しいキャラクターの名前を考えるのも大変なんです。考える先から忘れていきます。建物がすごくきれいです。木の格子が入っている高い建物です。

⑨p78~79:クロエに襲われるエドガー
p78-79.pngいろいろな条件があって、エドガーが自分の気をクロエに提供しているところです。
エドガーは大老ポーに直接一族に加えられているので、血が濃いです。クロエは毎年ポーの村から気をもらいにやってきます。いつでもアランを殺すことが出来ると脅されています。交換条件にアランは生かしておいてもらっています。


⑩p98~99:アランが元気になりました。
p98-99.pngファルカに治してもらってアランが元気になりました。そこへブランカとノアがやってきて、騒ぎになっています。こんなふうな楽しいひとときもありました、というシーンです。

エピソードをどの順番で描くかというのはすごく悩みます。エピソードの並べ方によって物語のリズムが違うんです。そのリズムが一番心地いい方、心地よい方に構成すると、読んでると気持ちいいし、読んでいて忘れないんです。

⑪p108~109:連合軍ノルマンディー上陸
p108-109.png1944年6月、ノルマンディー大作戦が始まったときです。スパイがまじっていますから、ラジオでは詳しい情報は言わないのですが、単に上陸したということだけ伝えています。上陸した連合軍はパリに向かっていきます。戦争が終わるかもしれないと盛り上がります。

⑫p128~129:クロエ再登場
p128-129.pngいつもは呼び出しているのに、エドガーのところへやってくるのは、完全にルール違反です。

⑬p130~131:大老ポー
p130-131.png誰かがクロエを罰します。それが大老ポーでした。生きていたのです。

⑭p132~133:エドガー倒れる~オットマーの死
p132-133.pngブランカがお世話になっているオットマーさんという人は眠れない病気にかかっています。オットマー一族の話もいろいろ絡んでいくのですが。昔、初めて知ったとき、本でいろいろ調べたりしたんですがこの病気は本当にあるんだそうです。神経系の病気で、40くらいに発症して、そのまま眠れずに死んでいく病気です。

⑮p150~151:ノアが流される
p150-151.png雨上がり、弟のノアが川に流され、たいへんなことになってしまいます。

⑯p164~165:ブランカがアシュトンに襲われる
p164-165.pngブランカが運転手のアシュトンに襲われ、エドガーと二人でブランカのブラジャーを取り合います。ブランカを助けるためにエドガーがアシュトンを殺すのですが、その現場を見たブランカがショックのあまり塔から落ち、髪の毛がまっ白になります。

⑲p188~189:エドガーとアランがひきあげるシーン
p188-189.pngファルカがパリにいるので、エドガーとアランは鉄道でパリに向かいます。


2.宝塚の話

「ポーの一族」は来年の1月から宝塚大劇場、2月からは東京宝塚劇場で上演されます。演出されるのは小池修一郎さん。昔からの知り合いなのですが、以前から「ポーの一族」を宝塚の舞台にしたいとおっしゃていたのですが。宝塚の舞台で子どもを主人公にするわけにはいかないと、二転三転したようです。

「萩尾さんが「ポーの一族 春の夢」を描かれたから僕が便乗して舞台にするのではないのだと言っておいてくださいね。」と小池さんに言われました。主人公の明日海りおさんは、小池さん曰く「エドガーのイメージにぴったり」だそうです。宝塚の舞台では年齢はあげてあります。
(先生はもちろんご覧になるそうです)。


3.質疑応答
Q:ブランカがあのような顛末になりエドガーやアランと違う道を歩むことになったのはどうしてでしょうか?理由があれば教えてください。

p168.pngA:お話をつくっているときに、塔から落ちるブランカの絵というのが出てきたりするんです。そうすると、そのイメージに引っ張られてしまうのです。何故この子は塔から落ちているんだろう?しかも髪が真っ白になって、恐怖で落っこちていく。エドガーに襲われたのだろうか?違う人に襲われたのだろうか?いろんなことを後づけて考えていくんです。残るイメージもあれば、描きにくいイメージもある。落ちるブランカというのは随分強烈だったので、今回はこれを目玉に話をつくっていこうと思いました。名前を「ブランカ」にしたのも髪が白くなるところから(「ブランカ」はスペイン語の「白」)。落ちて死んじゃったままではかわいそうだし、そこはファルカさんに頑張ってもらおうと思いました。


Q:ノアは発達障害やADHDを意識して描かれていますか?

A:そう意識しています。ブランカが「ずっと面倒をみなくてはならない」と思うような子にしています。彼を守らなければならないという責任感で遊びたいさかりなのに親代わりと思って我慢をしています。ブランカとは対照的に元気いっぱいな子にノアを描きました。うちのレオくんのような感じで描いています。


4.「ポーの一族」

何故「ポーの一族」を最初に描くことになったのか。

吸血鬼の物語を描きたいと思ったのですが、そもそも吸血鬼が好きじゃなかったんです。子どもの頃に読んだ漫画とか短編小説がものすごく怖かったので。眠れなくなるくらい怖かったんです。中学生か高校の頃に石ノ森章太郎先生の「きりとばらとほしと」を読みました。過去・現在・未来と時間が過ぎていく(※「きり」は過去、「ばら」は現在、「ほし」は未来の3編の作品です)。石ノ森先生は絵が美しくて、とても素敵な絵なんです。これはきれいだなと思いました。過去・現在・未来と時間軸が流れていくのなら、時間は流れていくけれど同じキャラクターが描ける。変わっていく風景を描ける。いろいろな時代の洋服が描ける。ファッションの勉強をしていたものですから、夕闇の中に翻るマントなんてかっこいいなと思いました。

描いてみたら、すごいキャラクターが気に入って、どんどん次のお話やアイディアが出てきました。それで編集部に描きたい話があるんですけど描かせてくれませんか?と言って、「ポーの一族」「メリーベルと銀のばら」「小鳥の巣」の3部作で、1本につき100枚くらいなんですと言ったら編集に「まだ早すぎるよ」と却下されてしまったんです。見ればわかるように、この時代まだ絵が全然ダメだったので。

それで、こっそりと「すきとおった銀の髪」(16p)を描きました。エドガーは最後にちらっと出てくるだけなんですが。次に「ポーの村」(24p)で吸血鬼がちょっと出てくる話を描きました。それから「グレンスミスの日記」(24p)で吸血鬼に会った人を描きました。編集も呆れて「そんなに描きたいのなら、見てやるから持ってこいよ。」といわれて「お願いします。」と(※萩尾先生は編集がこう言ったという時にちょっと乱暴な口調になるときがありますが、それはだいたい山本順也編集長のことです)。

発表した結果の反響は何もありませんでした。むしろ「エドガー怖い」とか。「すきとおった銀の髪」や「ポーの村」あたりだと「怖い」と言われました。が「ポーの一族」でエドガーが「自分は孤独のまま吸血鬼になって苦しんでいる」という一文があるんですけれど、その後からなんだかシンクロして下さった方がいらして、そのまま好きになって下さったりしました。


「ポーの一族」の吸血鬼の世界観というのは最初から出来ていたのか?

なんとなく村から出てきて獲物を探しにやってきたということを漠然と考えていて、そんなに詳しくは考えていなかったんです。どこかに彼らが住む村があって、そこでは幸福に暮らしていた。誰がつくったんだろうとか、そこで眠っていてもつまらないんじゃないかとか、いろんなことを考えてしまうんです。ポーの村の人たちは普段眠っていて、時々人間の獲物をさらってきて、みんなで分けるとか。

吸血鬼がバラに触れるとバラが枯れるというエピソードから、バラのエキスを吸っているのだろうと思いました。世界各国の吸血鬼について調べました。彼らが日に当たると消えてしまうとか、昼間眠っていて夜になると起きてくるとか、棺桶の中にいるとか、いろんな伝説が残っています。ブラムストーカーの「吸血鬼ドラキュラ」が出て、吸血鬼とはこういうもの、という定番となりました。でも、民間伝承の中には違う説もたくさんあって、とてもおもしろかったんです。特にこれと言って系統がないおいしい存在でした。だから自分のスタイルをつくることも出来ると思ったのです。

「ポーの一族」の中で吸血鬼は「ヴァンパネラ」と言います。本当は「ヴァンパイヤ」っていうんです。手塚治虫先生に「ヴァンパイヤ」という作品があって非常におもしろい作品です。ここで「ヴァンパイヤ」という言葉を使うと、どうしても手塚先生の関係があるのではないかとかシンクロしてしてしまったりする。「ヴァンパイヤ」でもいいけれど、なにか他に言葉がないかと探しているうちに、ふと私がスペルを読み違えたんですね。「ヴァンパイヤ(Vampire)」と書いてあったのだけど「ヴァンパネラ(Vampanera)」と読んでしまった。私の造語です。


恥ずかしいので、過去のものを読み返したりしないのですが、今回は資料に使うということで、コピーするために全部読んだんですけど、すごく若かったなと自分でもびっくりしました。(「ポーの一族」オープニングのシーンを指して)こういう叙情的なところは今でも描けると思うんですけれど、特に「小鳥の巣」の騒がしい学校生活とか、あのテンションの高さはびっくりしました。時期的にこれを描いた頃は、学校生活を終えてすぐだったので、学校の息づかいが自分の身体の中にそっくり残っているんですね。それが歳をとると、だんだん自分から過去のものとして遠ざかっていく。だからそれを思い出すためには苦労がいるんです。この時はまだ近いものですからダイレクトに描けるわけです。その息づかいをモロに伝えられたんだということを思い出されました。若い時に描ける作品もあれば、歳をとってから描ける作品もあるんです。


①オープニング:ポーの村を出て行くシーン
p1p006-007.pngこのシーンで覚えているのは、思ってる顔が描けなくて、どうしたものやらと。

②クリフォード医師と出会う
p1p012-013.png街にやってきて、シーラ夫人とクリフォード医師がお互いに一目惚れするというか、シーラ夫人にとっては獲物だから、なんとか誘惑しようという目力を描きました。


③アランとエドガーの運命の出会い
p1p016-017.png馬術の稽古をしていたアランとエドガーが出会います。ちょっと血をなめて、おいしそうだなと。それで、アランのいる学校に入って行きました。

④学校のシーン
p1p026-027.pngこれが学生のテンションですね。

⑤アランがエドガーに血を吸われるシーン
p1p064-065.png二人で散歩に行って、やっぱりちょっとおいしそうだったので、血を吸ってしまうんです。吸い取る感じですね。

⑥クリフォードがシーラを誘惑するシーン
p1p094-095.png雷が鳴ってる時、クリフォードさんがシーラの脈がないことに気づきます。

⑦メリーベルが殺されるシーン
p1p106-107.png

⑧エドガーがアランを迎えにくるシーン
p1p122-123.png


(「ポーの一族」すごくはしょってしまったので、また是非次の機会にお話して欲しいです)。


5.「ピアリス」
ピアリスこれは昔ちょっといろいろあってペンネームで書いていたSFです。載せていた雑誌が廃刊になってから終わっていたものです。河出書房新社の編集さんが最初は原画展のためにイラストを使いたいというのでもってこられたんです。この作者が私だと言ったら、イラスト付きで本にしたいと言ってきました。最初はちいさい文庫でこっそり出すつもりが、こんな立派なハードカバーになりました。

ピアリスとユーロというふたごの話です。神官の家系に生まれ、特殊能力があります。ユーロは未来を視ることができ、ピアリスは過去を視ることができます。ところが戦争が起きて、みんな移民することになりました。二人は離ればなれになります。そこから話は始まります。

内山先生「素晴らしい物語で、これを是非マンガにしていただきたいです。」
萩尾先生「体力的に無理です。体力のあるうちに仕事しないといけませんね。」
内山先生「この構想は最後まであるのでしょうか?」
萩尾先生「ある程度あるんですけれど、最後の最後どうするかだけは決めてなくて。書いているうちに見えてくるんじゃないかなと。」
内山先生「では、いずれは書いていただくということで。みなさんどうでしょうか?」

(ここで、拍手が起きました)

内山先生「これは文章で書いておられるのですが、マンガと文章と何が違うのでしょうか?」
萩尾先生「例えば「ピアリス」の1回分をマンガで描こうと思ったら、絵を描くのにすごく労力がかかるので、同じ話をマンガで描くとだいたい1ヶ月くらいかかります、文章なら絵を描く前まででいいから、だいたい10日くらいです。ただイメージを文章にする能力がちょっと足りないので、ものすごく苦労します。毎回言葉を探すのに四苦八苦します。」


最後に質疑応答

Q「最近先生が一番楽しみにされていることはどういったことでしょうか?」

A「寝る前にちょっとだけYouTubeでオペラを見ています。最初カンツォーネを聴こうと思って始めたのですが、ホフマンの舟歌をいろんな人が歌うのを聴いています。」



次はまた10月に萩尾先生がいらっしゃることになっているそうです。楽しみです。

2017.08.08 19:03 | イベント

萩尾先生と森見登美彦さんの対談イベントが行われます。

萩尾望都SF原画展 対談イベント2017年9月9日から「萩尾望都SF原画展」が神戸ゆかりの美術館で開催されます。この展覧会のオープニング記念として、萩尾望都先生とSF作家・森見登美彦さんの対談イベントが開催されます。


日時:2017年9月9日(土)14:00~16:00
会場:オルビスホール(神戸ゆかりの美術館5階)神戸市東灘区向洋町中2-9-1
入場:無料。但し展覧会入館券(入館済半券も可)が必要。

森見登美彦さんは2003年「太陽の塔」で第15回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビューしました。2010年の「ペンギン・ハイウェイ」で日本SF大賞を受賞しましたが、この本が2012年に角川文庫から刊行された際には、萩尾先生が後書きを書かれています。また、2013年に新潮文庫から「四畳半王国見聞録」が刊行された際には『波』誌上で対談もされていて、「ぐるぐる問答―森見登美彦氏対談集」という対談集にその模様が収録されています。

観覧ご希望の方は往復はがきを買って、まず下記を記入。
・イベント名:対談 萩尾望都×森見登美彦
・住所:
・参加者全員の名前:
・年齢:
・電話番号:

返信宛名面:ご自身の郵便番号・住所・お名前を明記
宛先:〒658-0032 兵庫県神戸市東灘区向洋町中2-9-1 神戸ゆかりの美術館

と書いてポストに投函です。8月18日(金)必着。応募多数の場合は抽選とのこと。

萩尾先生の関西方面でのイベント登壇は珍しいのではないでしょうか?この機会に是非。そして「萩尾望都SF原画展」を初日に見ることができます。是非参加してみてください。

神戸ゆかりの美術館のイベントページ
萩尾望都SF原画展公式サイトのイベントページ

2017.08.04 18:13 | イベント

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