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宝塚歌劇花組公演「ポーの一族」を観劇してまいりました

宝塚ポーの一族2018年1月1日から宝塚大劇場で公演が始まっている「ポーの一族」ですが、1月13日11:00の回を観てまいりました。素晴らしい舞台でした。小池修一郎先生が原作の世界観を大切にし、舞台表現の中でわかりやすく展開、演出してくださいました。ご存じの通り、ビジュアルの再現率の高さたるや、ため息が出るほどです。そして演者の皆さんの演技・歌・踊り、スタッフの皆さんの音楽、衣装、舞台装置、照明、すべてがとても高いクオリティでつくりあげられていて、感激しました。

宝塚の舞台は私は初めてです。宝塚というものが、伝統に培われてきたノウハウを生かし、非常に厳しい中を選ばれてきた人材に、肉体・演技・メンタルすべてにおいて徹底的な訓練を積み重ねた、日本で最高峰のエンターテイメントの集合体で、芸をきわめた人たちの集まりであることは知識としては理解していましたが、目の当たりにすることができました。興味がなかったわけではありませんが、たまたま私が若い頃に出会った舞台が宝塚ではなかったということかと思います。若い頃に見たら、はまっていたことでしょう。

「ポーの一族」は孤独にまつわる物語です。でも孤独だからこそ、血縁と血縁でないにかかわらず「愛」で結びつこうとする物語でもある。暗く重く宝塚的な華やかな要素は少ないながら、宝塚の世界観と一致する部分もある。これをどう美しく見せてくれるのか。

原作ファンなので脚本についてをメインで感想を書くことにします。以下ネタばれせずに書くことはできませんでしたので、ご注意ください。



宝塚ポーの一族脚本は、短い時間の中で原作に出来るだけ忠実にストーリーを追い、初見の人にもわかりやすく組み立て直されています。その手際の良さは本当に素晴らしい。メインは「ポーの一族」です。それに「メリーベルと銀のばら」の中からエドガーとメリーベルが捨てられ、一族に加えられる経緯が前段階でていねいに描かれています。「ランプトンは語る」のドン・マーシャルとマルグリット・ヘッセンとルイス・バードと新たに作りられたバイク・ブラウン4世が「現代から見てエドガーを追う」という語り手となり、ストーリー全体をわかりやすく進めていきます。そしてさらに物語をわかりやすくかつスピーディに見せるため、細かな改変が加えられています。宝塚なので大人数が登場する華やかな場面をつくる必要があり、メインをブラックプールのホテルに設定、村人の集まる酒場やロンドンの街中の市場など原作にない「場」を設定しています。

「メリーベルと銀のばら」では男爵とシーラの婚約式の夜、エドガーがハンナの正体を知っていつか仲間に加わることを約束し、メリーベルと遠ざけるためにアート家に養女に行かせます。原作ではそこから時間が経過してからビル親父が老ハンナを消滅させるのですが、舞台では婚約式をペッペたちが見てしまい、村の大人たちに訴えます。当然すぐに館を襲撃しようとする村人たちを牧師が止めます。それで時間を稼いだことになっています。子供だから本当にバンパネラかどうか信用できないと慎重になる牧師に対して、事実を確認するためにビルが行く設定になっており、そこで老ハンナを消滅させます。その短い期間にメリーベルを養女に出すのは、ちょっと厳しい感じましたが、やむを得なかったかなと思いました。

村人たちが館を襲いにいく「対決」のシーンで「ポーの一族」「ポーツネル」の両方の言葉が出てきて、ポーツネルは男爵の名前であって一族を総合的に言う時は使わないだろうにとは思いました。どの場だったのか自信がないので次回確認します。ここで結局、大老ポーはどうなったのか、微妙な感じで終わらせているのが、後への伏線となっています。

宝塚ポーの一族次に、ロンドンで目覚めたばかりのエドガーがディリーを襲うという場面をディリーの家ではなく市場の中、人目のあるシーンにしています。いやこんな人目のつくところで襲わないだろうと思ったのですがエドガーが目覚めて戸惑うところをスピーディにするためでしょう「こんな街中で!」というポーツネル男爵のセリフが出てきて意図的であることがわかります。その前の馬車での移動にわざわざ「ゆうるりと」の歌を入れじっくり描いた後に市場の華やかなシーンをもってきて、スピードを上げたり落としたりのメリハリが効いていてこちらの集中力を途切れさせません。

「メリーベルと銀のばら」の核となるオズワルドとユーシスとの関係を短いシークエンスにして見せています。短いので台詞だけにして省略してもよかったのに、わざわざ演じて見せたのは、ここが抜けてしまうとメリーベルがエドガーについて行く理由が弱くなってしまうためでしょう。こういう部分を雑にしないところに大事にしてもらえてる感があるんです。ただ、せっかくなのでメリーベルに最後の挨拶をする場面だけは「窓」を生かして欲しかった。しかしこの小さなフラストレーションはアランを連れに行くシーンへの期待につながります。

「ポーの一族」に入ります。ブラックプールのホテルをメインの舞台としたため、ポーツネル一家の住まいをホテルに改変。また、クリフォードの診療所(クリニック)もホテル内に設定されています。これもいいです。これ以降はほかにセント・ウィンザーとトワイライト家が舞台です。海辺の小屋とカスター先生の診療所は重要な場所なので一度しか出てきませんが、きちんと設定されています。学校をさぼってエドガーとアランが行くとりでは学校の校舎の塔に変更し、ここでアランを襲います。

脚本の一番の見どころは降霊術の大会を入れたオリジナル部分。もちろん「ホームズの帽子」のエピソードから発想されているのでしょうが、小池先生のオリジナルです。ヴラヴァツキーという原作にまったくない人物がとても魅力的です。彼女の役割は大老ポーを登場させ不吉な予言をさせることとクリフォードとバイクに銀の銃弾を与えること。それはわかるのですが、わざわざ時間を使った降霊術の会の意味は本当はどこにあるのか。次回考えたいと思いました。特に「海辺の小屋に近づくな」の言葉が丸無視されているので余計に違和感が。ちょっとでもシーラが逡巡してくれたらよかったのですけれど。

先に触れましたが、原作ではちょっとしか登場しないクリフォードの友人バイクの存在を大きくしてジャーナリストに設定、ポーツネル一家の足跡を残す役割を担い、そして現代に4世として子孫に伝えるという改変をしています。バイクについてはこのことにプラス、クリフォードの「非科学的なことを信じない現代的な人間」という側面を強化する役割ももっているように思えます。

エドガーとアランの出会いをホテル内にした演出はよかった。馬を出すことは可能かもしれませんが、手間がかかり過ぎるし時間も取られる。私は大好きな場面ですが、それはマンガ表現として素晴らしいのですけれど、今回の舞台にのせるにはいささか過剰になってしまう。こういうところに手際の良さと思い切りの良さが感じられます。

宝塚ポーの一族シーラがジェーンと偶然出会い、一緒に帽子を見る行くシーンが事前にジェーンに近づくことを狙ってウェディングドレスを見に行くことにした変更はわかりやすい改変です。ホテル内のドレスメーカーになっているのも場の移動がスムースです。ただ、ジェーンが具合の悪くなったメリーベルを連れて行く場所がホテル内のクリフォードの診療所になってしまうとメリーベルの最後のシーン、エドガーが間に合ってしまう。ですから今はクリフォードがいないということが強調されていましたが、具合が悪いのにわざわざ距離のあるカスター先生の診療所に連れて行くのは疑問でした。とりあえず具合が悪くなったのなら、クリフォードの診療所にメリーベルを連れていきカスター先生を呼べば良いのに、ちょっと不自然に感じましたが、仕方がないですね。

トワイライト家を飛び出したアランが雨の中をメリーベルのもとにいき、「ぼくがプロポーズしたら怒る?」のシーン、台詞がちがっていました。「婚約して欲しいと言ったら」になっていて、これはその前にクリフォードとジェーンの「婚約式」という言葉がずっと使われていたからだと思います。更に言うならポーツネル男爵とシーラの時も「婚約式」という言葉でした。こういうところで観客にわかりやすくしてくれているのだなと思います。でもアランが走って汗をかいていることにしたのは何故だろう?雨にぬれたのではダメな理由がちょっとわかりませんでした。「雨が海に降っている」シーンは舞台で表現できないわけではないと思いますが、叙情的過ぎて浮くのかな?という気はしました。

クリフォードがメリーベルを殺すシーンの演出ですが、とても重要なシーンなので、クリフォードの鬼気迫る演技やジェーンのおかしくなってしまう演技もよかったのですが、メリーベルの壮絶な叫びにちょっと違和感がありました。メリーベルの悲劇的な最後のせいでエドガーの「ぼくはまにあわなかった」に重みが出るのですが、ああ見えて幼い少女ではなく100歳とか生きているわけですから、もう少し抑制があっても、と感じてしまったのは原作が頭に入っているからでしょうか?

ポーツネル男爵とシーラが消滅するシーンをホテル内にしたのは舞台的な演出上、わかりやすくて良いと思いました。でも原作にあるエピローグへ向かう一連のシーンは本当に素晴らしいです。

アランが叔父を突き飛ばした、マンガ表現として画期的なシーンですが、ここの階段落ちは舞台でももうちょっと激しくやって欲しかったです(危ないでしょうか?)。ラスト、窓からアランを迎えに入ってくるエドガー、このシーンもよかったのですが、もう少し風を吹かせて欲しかったと思いました。そしてゴンドラ。「ポーの一族」のエンディングは孤独なエドガーが人間に絶望したアランを連れて行くのであってハッピーエンドでは決してないのですが、それでも宝塚の舞台で物語の終わりがカタストロフィになってしまうことは観客に対してやってはいけないことなのだろうと思います。エンディングを二人の門出を祝うようにしたこの演出は、私はよかったと思います。

宝塚ポーの一族見終わって強く思ったのは「メリーベルと銀のばら」「小鳥の巣」だけでそれぞれ演目として欲しいということです。この舞台が「ベルサイユのばら」のように宝塚でシリーズ化して欲しい。でも上演まで30年かかったように、今回のように奇跡的に合う役者が揃わないと、という面があり難しいかもしれないなと思います。明日海さんだけでなく仙名さん、柚香さんのトライアングルが揃ったことでこの舞台が成り立ったのだとしたら...。

私は原作そのままの舞台が観たいわけではありません。舞台のダイナミズムにのっとった、新たな「ポーの一族」が見たいのです。でも原作の世界観を理解して大切にしてほしい。その一見矛盾するような望みをかなえて下さり、心から感謝しています。舞台表現とマンガの表現は違います。舞台だから出来ること、マンガだから出来ることが違うことを理解すれば、ほとんどの改変は納得のいくものです。舞台だからこそバッサリ切るところや付け加えるところがあって、そこがおもしろい。原作に忠実過ぎて息が詰まるような舞台は疲れますし、結局のところ筋を追うだけの「確認作業」になってしまいます。今回の宝塚の舞台はそんなことはなく舞台を堪能することができました。

宝塚ポーの一族原作ファンの皆様、期待にたがわず素晴らしい舞台でした。是非ご覧になってください。すでにチケットを得ている方は楽しみに。チケットが得られていない方は当日券がありますが、宝塚の当日券は朝から並ばなければなりません。寒いのでどうかお気をつけてください。

追記1:グッズはいろいろと売られていますが、萩尾先生の絵が使われているのは、現在のところパンフレットとこのルピシアの紅茶(1/12発売開始)のみです。

追記2:肝心のエドガーの年齢についてですが、かなりぼかしてあります。シーラとエドガーはカップルとは言えないまでも親子にはとても見えません。姉と弟と他人から間違われているシーンをあえてつくってありました。でもシーラは20歳で時を止めていて、エドガーが14歳なので、元々原作でも姉と弟と言われてもおかしくはないのです。

また観て確認できたところは追記します。

2018.01.14 12:37 | イベント

福岡会場で萩尾望都先生のトークショーと松本零士先生との対談が開催されます。

福岡イベント2018年3月17日(土)「萩尾望都SF原画展」の福岡会場は北九州市漫画ミュージアムですが、その近くの「北九州国際会議場」メインホールにて萩尾望都先生のトークショーと萩尾先生と松本零士先生の対談が開催されます。

来年の3月17日から「萩尾望都SF原画展」が福岡でも開催されることは以前より発表されていましたが、そのオープンの日に北九州市漫画ミュージアムの名誉館長、松本零士先生との対談が開かれます。最初に萩尾先生がお一人でお話になり、その後に対談の2部構成ですね。

申込みは2018年2月20日(火)まで。往復葉書です。宛先などの詳細はこちらに記載されています。500名ならはずれないかなぁと思いつつ、ちゃんと応募します。あとホテルと飛行機を確保しないと。

対談 萩尾望都×松本零士&萩尾望都トークショー

会期:2018年3月17日(土)14:00~16:00
会場:北九州国際会議場 メインホール(福岡県北九州市小倉北区浅野3-8-1)JR小倉駅から徒歩8分
2017.12.15 14:09 | イベント

萩尾望都SF原画展静岡会場、佐野美術館に行ってきました。

佐野美術館正面2017年12月8日、萩尾望都SF原画展の静岡会場、三島市の佐野美術館に行ってまいりました。こちらは大正・昭和時代の三島市出身の実業家、佐野隆一氏の収集品を基礎とし、回遊式の庭園のある美術館です。会期は11月11日から始まってますので、遅くなりましたね(12/23まで)。

三島駅からは電車2駅(三島田町駅)と徒歩3分、バス6分、タクシー10分、徒歩20分くらいとなっていますが、詳細はこちらです。駐車場もあります。私はタクシーで行ってしまいました。新幹線を降りると北口が近いのですが、どの方法にせよ南口に出た方が良いです。

佐野美術館は入口が二つあり、一つは庭園口、もう一つは美術館正門となります。庭園口で降りてお庭を見ながら美術館に行くのもよし、ぐるっとまわって先に美術館にまっすぐ行って、帰りに庭園を長めながら庭園口に向かうもよしです。レストランはありますので行ってからお庭を眺めながら一息ついて、それから美術館で展示を見ることも、逆のことも出来ます。

レッド星阿修羅

キラ美術館の入口にはおなじみの三つの写真撮影可の場所。左から「スターレッド」星、「百億の昼と千億の夜」の阿修羅、「マージナル」のキラとなっています。入口手前にロッカーがあって荷物を入れることができます。お手洗いも1階です。展示室は階段を上がったところにあります。

最初に思ったのは、展示室の照明。佐野美術館の公式Twitterの写真で見るとすごく明るい印象があったのですが、現場での印象はそれよりは暗かった。これは途中で落としたのか、写真の印象か、わかりません。

次に、絵まで距離がある。これはおそらく「萩尾望都SF原画展」では初めてのことだと思います。それが少し残念。

展示室正面それから、順路が非常にわかりにくい。おそらく私が他の会場を回ってきているからなので、初めてご覧になる方には特に気にならないかもしれません。特に最後の方、作品が時系列になっていないので、あれ?と。一応「順路」はあるのですが、どう順路通りに行っているつもりでも、「AWAY」「バルバラ異界」あたりの順番がおかしい。おそらくはスペースの問題だと思います。吉祥寺の時より点数が増えていて、新潟や神戸では充分な広さがあったのですが、あの点数をこのスペースにすべて展示するのは、実は大変だったのではないかと、推察しました。第二展示室から第三展示室への廊下が「銀の三角」コーナーになっていたりしましたね。

やはりスペースの問題で、タペストリーの点数が神戸で15点だったのが6点になっていました。二次資料も3分の2くらいになっていたかもしれません。これは細かく比較してみないとまだわかりませんが。
でもそれ以外の原画、複製原画は新潟・神戸と同じだと思います。

それから神戸でも流されていましたが、神戸での萩尾先生と森見登美彦先生の対談のダイジェスト版22分を大画面で見ることが出来る「映像コーナー」という小部屋がありました。

キューキューにまとまっているので、意外と見やすいとも言えます。歩き疲れしません。

庭園展示を見終わって階下に降りてミュージアムショップに寄ります。私は帰りに庭園を見ました。紅葉がまだ残っていて、良い感じでした。

三島は東京から新幹線(こだま)56分、品川から47分。お値段は片道4,000円。東京から日帰りは全然余裕です。また、東海道本線で時間をかけて2時間強で行くこともできます。こちら2,000円強。クルマだと東名高速の沼津インター降りて15分くらい。竹橋JCTを起点として1時間45分くらいで行きますね。お休みの日のドライブがてらにいいかもしれません。吉祥寺でご覧になった方もすごく点数が増えているので行く価値はあります。

会期は12月23日までです。展示の詳細についてまた追ってアップします。

2017.12.11 0:23 | イベント

萩尾望都先生のアメリカ講演の旅レポート(その2)

オレゴン大学構内2017年11月6日、萩尾望都先生はオレゴン大学での講演会に登壇されました。女子美術大学の内山先生とご一緒です。

ワシントン大学と同様、国際コミック・アーツ・フォーラム(ICAF)が主催で、オレゴン大学の「コミック&カートゥーン・スタディーズ・コース」という専攻科との合同事業です。他にもいろいろな科や団体が入ってますね(An Evening with Moto Hagio (Univercity of Oregon)

机の上萩尾先生が渡米されてから一番の晴天。秋の澄み渡る空気の中、16:00から講演は始まりました。机の上には引き続き複製原画が多くおかれています。「ポーの一族」のブランカのシーンの下書きが見えます。

まずは萩尾先生のプロフィール、次にデビュー作「ルルとミミ」を紹介します。

萩尾先生「私が福岡に住んでいた子どもの頃から日本にはマンガがあり、夢中になって読んでいました。とりわけ手塚治虫が大好きで、15歳の時に「新選組」を読み、ドラマチックなストーリーで感動してショックを受けました。一週間頭から離れませんでした。そのショックを誰かに返したくてマンガ家を目指しました。」

●「ルルとミミ」
ルルとミミ萩尾先生「日本でマンガ家になる一つの方法として出版社に投稿する方法があります。大きな出版社が東京にあり、作品を描いて送り、20歳の時に上京しました。いい作品なら載せると言われ、何を描くか決めて二週間で描きました。最後の一週間はほとんど寝ないで描きました。」

●「11人いる!」
予告カラーを見せました。セロテープ跡やメモが書かれているままのものです。

萩尾先生「この話を思いついたのは、中学生の時に読んだ宮沢賢治の「座敷ぼっこ」という童話を読んだときです。東北地方では古くから「座敷童子」の話が伝えられていて、これに基づいて作られた童話です。

北の方の大きな家には家を守る「座敷ぼっこ」というフェアリーが住んでいて普通は人間に見えません。子供が10人で遊んでいると、気付くと1人増えていました。みんな知っている子なのに誰が増えたかわかりません。驚いてみんな逃げてしまいます。その1人増えたのが11人目の座敷童子です。このお話がおもしろかったので、いつか描きたいと思っていました。

18歳の頃に「11人いる!」のストーリーを思いついたのですが、11人の顔が思いつかずそのままになっていました。キャラクターを11人考えるのは大変でした。発表した頃には11人を描けるようになっていました。」

内山先生「マンガで二色は珍しいのでは?」

萩尾先生「三色より二色の方が安かったから編集部が二色にしたのだと思います。二色の場合は黒と赤、黒と紺などの組み合わせになります。二色は基本何色を選んでもよいのです。この作品で赤と黒を選んだのはコントラストがきれいだからです。」

ここで「11人いる!」のストーリーを話しました。タダ、王様、ヌー、フロルを選んで、それぞれのキャラクターを説明しました。

●「イグアナの娘」
イグアナの娘萩尾先生「自分をイグアナだと思った女の子のお話です。なぜこの作品を描こうと思ったか、という話をします。
両親は私がマンガ家になることに大反対しました。マンガ家になって食べていけるようになっても「やめなさい」と言われ続けました。何年も何年も説明しましたがわかってもらえませんでした。
こんなに話が通じないのは私が人間ではないのではないか。牛かもしれない、イグアナかもしれない。これは良いアイデアではないかと思い、この話ができました。」

「イグアナの娘」の絵を見せながら説明します。

内山先生「萩尾先生のお母様にお会いしたことがありますが、厳しい方でした。成功しても認めてもらえなかった苦しみがクリエイティブの原動力になっているのではないですか?」

萩尾先生「両親を見ていて、理屈がどんなに正しくても通じない、不条理がある。それがマンガを描く原動力になっています。」

内山先生「この話には続きがありますよね?」

萩尾先生「はい。両親はマンガを描くことを反対し続けていたのですが、ある時母から電話がありました。「お母さんが「ゲゲゲの女房」を見とったら、水木先生がマンガを描いとったたい。あんたもマンガを描いて仕事しとったたいね。どうも失礼しました。」

ここで「ゲゲゲの女房」の説明を通訳の方が英語でしました。

萩尾先生「母からの電話にビックリしましたけれど、それから母は娘のマンガに反対したことはないと言うようになりました。2年前に母は亡くなりましたが、最後に仕事を理解してくれてよかったです。」

●「ポーの一族」
flowers 2016年7月号内山先生「40年ぶりに「ポーの一族」の新作が発表されて、掲載された『フラワーズ』という雑誌がいつもの2.5倍発売されましたが、即日完売。私も買えませんでした。電子版も1万を超えるダウンロード数で、テレビのニュースにもなりました。」

「ポーの一族」の系図が画面に映し出されます。大きく三つのグループにわけられます。
「ポーの一族」1870~
「メリーベルと銀のばら」1760~
「小鳥の巣」1960~

萩尾先生「19~20歳の頃、デザイン学校でファッションの勉強をしていました。いろいろなドレスの変遷を勉強して、おもしろかったです。昔、流行したロングドレスやマントは、今は着る機会がありませんが私は好きです。

夕焼けの逆光の中、マントを翻して立つ少年が浮かびました。とてもきれいなイメージでした。
この少年が吸血鬼で何百年も生きたらいろいろな衣装が描けると思いました。
それが「ポー」を描いたきっかけです。
主人公エドガーのキャラクターを決め、「ポーの一族」の人々も決めました。旅をする友達をアランにしたのはエドガー・アラン・ポーという作家が好きだったからです。」

主なキャラクター3人の特徴の話になります。

萩尾先生「エドガーは子供のまま吸血鬼になった少年で、周囲にその気持ちを理解してもらえない。唯一の理解者がメリーベルです。メリーベルが死んだ後、エドガーはアランを仲間にします。
エドガーはワンマンな指導者です。テキパキと物事を決めます。
アランはわがままな少年で、エドガーを困らせています。でもエドガーに自分が存在していることを感じさせてくれる、良いパートナーです。」


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ここで実践です。実際に聴衆の前で絵を描いて、モニターに映し出します。画力対決のようなスタイルです。女子美の講義でもやったことがあります。
エドガーを鉛筆で描かれる萩尾先生。描き終わると一斉に拍手が起きました。

萩尾先生「キャラクターを描くときは、顔のバランスが難しいです。頬の位置、目の位置がズレやすいので、今描きながらハラハラしました。」


oregon04.pngエドガーが登場するシーン
「ポーの一族」について、エドガー登場シーンの画面を見ながら説明します。
萩尾先生「薔薇が吸血鬼の存在を象徴しています。最初はぼんやりとした薔薇です。フォーカスが合い、薔薇がはっきりしていき、全体がクリアになっていきます。」

oregon05.pngエドガーとアランが出会うシーン
萩尾先生「このエドガーとアランが出会う重要なシーンにはほとんどセリフがありません。馬に乗っているのがアラン。驚いているのがエドガーです。アランの目線からのコマですが、一回転して地面に落ちています。」

内山先生「萩尾先生のマンガは心を理解できる描き方になっていますね。」

ポーツネル男爵ご一家ポーツネル一家が登場するシーン
萩尾先生「1870年代のスカートがスリムになった感じが好きです。これは一家がご飯を食べに行くシーンです。ほんとは食べに行かなくてもいいのですが。」


oregon07.png「メリーベルと銀のばら」はエドガーが何故吸血鬼になったのか、というお話です。

萩尾先生「村人が吸血鬼にクイを打つシーンでは上から見た図を描いてます。頭の中のイメージ、ショックと恐怖でいっぱいのを表すため、集中線が四方八方に広がっています。背景を暗くしたのは恐怖を表すためです。気持ちを表すシーンを描くために努力をしてます。」

キングポーエドガーを吸血鬼にする場面
萩尾先生「エドガーがバンパイヤ(この講演では意図的にバンパイヤという言葉を使いました)になるシーンですが、一番年上のバンパイヤである長老(キング・ポー)が、エドガーが大人になるまで待てなくなったので、エドガーを吸血鬼にします。

日本のマンガ右ページを開くのでクルリと回る構図です。目眩が起こるので面白い効果が現れます。エドガー意識が薄れる中で自分が変わっていくのを感じています。」

内山先生「構図として、キャラクターの心理情報を画面にうまく入れるのが萩尾先生が天才と言われる由縁でしょう。」

ここで時間が押したため。さまざまなマンガ絵を見せます。雑誌と単行本加筆の比較もワシントン大学と同じように見せました。

●質疑応答

質問「先生がマンガを描くのは、どこから始まりますか?」

回答「ストーリーから脚本をつくっていきます。絵を落書きをしているうちにアイデアが浮かんできます。

まず、絵のイメージが浮かびます。好きな絵が何度も浮かぶと、これは使えるなと思います。
「ポーの一族」のエドガーやアランのことを考えていた時は3日くらいでストーリーが出来ました。
または、一つのことばかりが気になり、ストーリーがうまく出来ないこともあります。
でも、いつか使えると思って暖めていると、ふとストーリーが浮かんでくることもあります。

原稿を編集部に見せる時は完成した原稿を送ります。途中の打ち合わせはしません。」

質問「これまで何年も素晴らしい作品で人々に影響を与えてこられましたが、一番最初に意味があるものを作ったと感じた作品は何ですか??または一番はじめに気に入ったのはどの作品ですか?」

回答「「ビアンカ」です。私の作品には出来のいいものと悪いものがあります。「ポーの一族」は最初は出来が悪いと思っていました。いつも描いた後はこれでいいのか?と考えています。」

質問「「トーマの心臓」と「ポーの一族」は文学の影響が見えましたが、ありますか?」

回答「私は文学や映画や絵画を愛しています。文学ではヘルマン・ヘッセが大好きでいつかドイツを舞台にしたいと思っていました。それで「トーマの心臓」を描きました。キャラクターの名前はヘッセから随分もらいました。」


質問「日本のマンガ家は一人で作品を作っているイメージでしたが、「漫勉」を見て作家が一緒に作っていることを知りました。萩尾先生はいかがですか?」

回答「たくさんのアシスタントを使っています。アシスタントが入る時は泊まりで仕事をします。30ページを描く場合は絵を描くのに15日かかります。アシスタントは机が3つあるので2~3人がいつもいます。ローテーションで2~3日で人がかわります。
なぜかというと、アシスタントが疲れるからです。」

ちょうど「スターレッド」の画像が映し出されていたので、アシスタントがどの仕事をしたか説明しました。

オレゴン大学構内以上です。萩尾先生、内山先生、スタッフの皆様、お疲れ様でした。
詳細なレポートありがとうございました。

2017.11.10 0:04 | イベント

萩尾望都先生のアメリカ講演の旅レポート(その1)

2017年11月、萩尾望都先生はアメリカのワシントン州とオレゴン州へ講演の旅に行かれました。萩尾先生に帯同されているスタッフの方から講演のレポートと写真を送っていただいたので、お許しをいただき、私の方で現地の皆さんのツイートの翻訳を追加したりしてアップします。



ヘンリー・アートギャラリーヘンリー・アートギャラリー2
11月2日、ICAF(International Comic Arts Forum)のイベントに参加され、ワシントン大学シアトル校で講演をされました。女子美術大学の内山博子先生とともに登壇されています。日本語での講演です。その場で通訳されているようです。

ワシントン大学での講演1会場は大学内のヘンリー・アートギャラリーというところで、お客さんはいっぱいだったようです。

まずはプロフィール紹介から始まりメインの作品の紹介、いままでの作品の数及び出版物について。刊行物合計で2,000万部、作品数は208点、描いたのは18,527ページと発表。すごい。数えるのも大変だったでしょうね。

マンガ家になったきっかけとして手塚治虫の「新選組」を読みショックを受けたこと。そのショックを誰かに返したくてマンガ家になる決心をしたこと。そして、デビュー作「ルルとミミ」が紹介されます。

次に「ポーの一族」のお話。昨年新作が発表され、その新作が掲載された雑誌を増刷したにもかかわらず売り切れてしまい、急遽デジタル版を追加したのですが、それも1万ダウンロードあったことなどのお話が出ました。

ワシントン大学での講演その2「ポーの一族」の系図が表示されて、会場が少しざわめきます。この系図はファンの方がつくったものです。左の写真を大きくするとうっすらと見えます。
萩尾先生「「ポーの一族」を描こうと思ったのはデザインの学校に通っていて服装の勉強をしていたので、いろいろな時代の服を描きたかったからです。まず頭に浮かんだのが長いマントをひるがえして立つ少年の姿で、さまざまな衣装を考え始めたら3日くらいでお話が出来上がりました。自分でも早いと思いました。

まず、エドガー・ポーツネルのキャラクターをつくりました。次にエドガーのパートナーを考えたのですが、エドガー・アラン・ポーの名前からアランと名付けたキャラクターができました。アランが登場するシーンで馬に乗っているのは、この人たちは貴族だから馬くらい乗っているだろうと思ってのことです。

エドガーとアランのキャラクターをつくった後で彼らの家族関係はどうしようかと考えていると、エドガーが現れてこんな家族がいると話してくれたり、メリーベルが登場したりしました。

「ポーの一族」の衣装は「風と共に去りぬ」に触発されてつくったものもあります。「風と共に去りぬ」ではスタイルがどんどん変わっていきますが、1870年代の服が好きだったので、この時代の衣装にしました。「ポーの一族」は1800年代を中心にして、その100年前と100年後のお話です。

「メリーベルと銀のばら」でエドガーがバンパネラにされる場面で気をつけたことは、黒い画面のシーンを多くしたことです。読者を引きつける方法をいつも考えています。最初にイメージが浮かび、そのイメージから頭の中で浮かんだことを表現できるように描いています。

ワシントン大学での講演会のフライヤー「メリーベルと銀のばら」は最初は50ページ×3回=150ページでお話を考えていたのですが、雑誌掲載の都合上、1回につき31ページ、合計93ページにさせられました。お話は何とか詰め込めても、それでは細かな人間の感情は表現できませんでした。ですから、単行本になる時に大幅に加筆しました。雑誌に描いた時に入らなかったネームを保存していたのでできました(ここで、雑誌掲載時と単行本用に加筆した原稿の比較をわかりやすく紹介)。

「小鳥の巣」はヘルマン・ヘッセが好きでドイツに憧れていたから描いたものです。
4色カラーより2色カラーで考える方が楽でした。色を選ぶのは難しいです。」

内山先生「「トーマの心臓」の画面構成において、心情を描くときのコマの切り方が素晴らしいです。横割りの場面が大事なところで使われています。制作上のテクニックがあるので読んでほしいです。」

次に「イグアナの娘」の話になります。萩尾先生は「自分と両親の関係はよくなかったのです。両親は厳しく、勉強が出来る良い子に育てたかったのですが、私はマンガを描きたかった。マンガを描いてる時だけが自由になれました。」

内山先生「マンガに飽きませんか?」
萩尾先生「飽きたりはしませんが、4年に1回くらいアイデアが出なかったりして、もうダメかと思います。悩みながら描いています。苦しんだあと、戻ってきて描いていると幸福な気持ちになります。」
内山先生「ストーリーが膨らむのはどうしてですか?」
萩尾先生「アイデアが育つ時と育たない時があります。アイデアがやってくると自分でもビックリする時があります。」

複製原画絵を描く道具
今回の講演のために、複製原画や実際に使っているペンや道具を持っていかれ、展示されています。この道具の使い方などを説明されました。

質疑応答です。
Q「最後にマンガを描くのが嫌になったのは?」
A「2011年に東北大震災が起こったときです。こんな状態ではマンガは描けないと思いました。しかし、作家は業が深いので原発事故を元にマンガを描きました。描くことを諦めませんでした。」

Q「ボーイズラブの先駆者は萩尾先生ではないでしょうか?」
A「それは竹宮惠子さんだと思います。
私はフランス映画の「寄宿舎」を見ました。「寄宿舎」はボーイズラブの美しくて悲しいお話でしたが、最後に少年が自殺して終わるというところにかわいそうだと腹が立ちました。この少年を生き返らせたくて「トーマの心臓」を描きました。また、「11月のギムナジウム」は掲載誌が少女雑誌だったので女の子の方が良いかと思って女の子でお話をつくったのですが、女の子は不自由だと気付きました。男の子にした方が生き生きとしました。」

質疑応答時の質問者は日本人でした。おそらくシアトル在住のファンの方たち。英語圏の方のツイートでは萩尾先生が日本語で何かおもしろいことをおっしゃると、半分くらいの人が即座に笑うのですが、続いて翻訳の方が翻訳すると、そこで残り半分が笑うという感じだったようです。

講演終了後のサイン会の予定はなかったのですが、会場のファンの皆さんの情熱に押されてサイン会になってしまったそうです。日本人だけでなく、さまざまな国の人がいたそうで、さすがアメリカですね。



シアトル郊外の中学校翌11月3日はシアトル郊外の中学校で講演会が開かれました。珍しく雪が振っていて、紅葉と雪のコラボが素晴らしかったそうです。

シアトル校外の中学校2うって変わって講堂のようなところですね。子どもたちと距離があるようですが表示されている画面が大きいので、大勢いるのでしょうか?「11人いる!」をメインに「イグアナの娘」の話をなさいました。

シアトル校外の中学校3まずは萩尾先生のご紹介。マンガ家になったきっかけ、そのきっかけとなった手塚治虫作品のお話。デビュー作「ルルとミミ」の紹介。「ルルとミミ」はアメリカのお話ですと説明しました。

「11人いる!」のお話。宮沢賢治の「座敷ぼっこ」という民話からお話を考えたこと。

「イグアナの娘」のお話。これは両親との葛藤を描いたものです。萩尾先生が子どもたちに問いかけます。「親はやりたいことを応援してくれますか?」ほぼ全員が応援してくれると手をあげました。先生は思わず拍手したそうです。「両親の反対がマンガを描く力となりました。親が願う娘になりたかったのですが、マンガを描きたい気持ちを優先させました。いつか親はわかってくれると思っていました。」

ほかにもいろいろな作品を映像で紹介しました。

「自分にとって生きている世界は謎が多いので、世界への疑問を掘り下げるとストーリーが浮かびます。」と。

質疑応答では子どもたちがこぞって手をあげてました。萩尾先生の講演会であんなにたくさんの手があがるのは初めて見たそうです。さすが、アメリカの子どもたち。「描く時間はどのくらいですか?「どうやってデビューしたのですか?」などなど。
講演が終わった後も先生に質問していたそうです。「ポケモンを知ってますか?」から「どうやれば絵が上手くなれますか?」.........。モジモジした日本人と違って、積極的でいいですね。


ファンタグラフィック社のサイン会11月4日は「トーマの心臓」「バルバラ異界」の英語版を出版しているファンタグラフィック社のサイン会。

アメリカのコミコン(コミケ)の小さいもののような感じですが、多くの人で賑わっていたようです。ファンタグラフィックスがブースを出すのでサイン会を1時間ほどしてくれないか?と急遽申し込みがあったので快く引き受けた先生。サイン会というようなきちんとしたものではなく、ブースに座ってやってきたお客さんとお話しするという感じだったそうで、まさにコミケ・スタイルですね。自らも出店していたアメリカ人の作家がサインをもらいにきていたり、すでに本を持っているのにサインのためにもう一冊買い求めている人がいたりしたそうです。

icaf2017今回のワシントン大学での講演ですが、ワシントン大学のイベントページに記載されているsponcerのうち、主催はInternational Comic Arts Forum(国際マンガアートフォーラム)で、おそらく後の団体が後援かと思います。Japan Arts Connection Lab(シアトルにある日本文化研究の団体)、 UW Japan Studies Program(ワシントン大学日本研究プログラム)、The Simpson Center for the Humanities(シンプソンセンター。ワシントン大学にある研究所) 、Fantagraphics(「バルバラ異界」「トーマの心臓」英語版を出した出版社)。

現地の方たちのツイートをまとめました。


次はオレゴンです。オレゴンからのレポートはまた。

2017.11.06 15:15 | イベント

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