2017年11月 6日

萩尾望都先生のアメリカ講演の旅レポート(その1)

2017年11月、萩尾望都先生はアメリカのワシントン州とオレゴン州へ講演の旅に行かれました。萩尾先生に帯同されているスタッフの方から講演のレポートと写真を送っていただいたので、お許しをいただき、私の方で現地の皆さんのツイートの翻訳を追加したりしてアップします。



ヘンリー・アートギャラリーヘンリー・アートギャラリー2
11月2日、ICAF(International Comic Arts Forum)のイベントに参加され、ワシントン大学シアトル校で講演をされました。女子美術大学の内山博子先生とともに登壇されています。日本語での講演です。その場で通訳されているようです。

ワシントン大学での講演1会場は大学内のヘンリー・アートギャラリーというところで、お客さんはいっぱいだったようです。

まずはプロフィール紹介から始まりメインの作品の紹介、いままでの作品の数及び出版物について。刊行物合計で2,000万部、作品数は208点、描いたのは18,527ページと発表。すごい。数えるのも大変だったでしょうね。

マンガ家になったきっかけとして手塚治虫の「新選組」を読みショックを受けたこと。そのショックを誰かに返したくてマンガ家になる決心をしたこと。そして、デビュー作「ルルとミミ」が紹介されます。

次に「ポーの一族」のお話。昨年新作が発表され、その新作が掲載された雑誌を増刷したにもかかわらず売り切れてしまい、急遽デジタル版を追加したのですが、それも1万ダウンロードあったことなどのお話が出ました。

ワシントン大学での講演その2「ポーの一族」の系図が表示されて、会場が少しざわめきます。この系図はファンの方がつくったものです。左の写真を大きくするとうっすらと見えます。
萩尾先生「「ポーの一族」を描こうと思ったのはデザインの学校に通っていて服装の勉強をしていたので、いろいろな時代の服を描きたかったからです。まず頭に浮かんだのが長いマントをひるがえして立つ少年の姿で、さまざまな衣装を考え始めたら3日くらいでお話が出来上がりました。自分でも早いと思いました。

まず、エドガー・ポーツネルのキャラクターをつくりました。次にエドガーのパートナーを考えたのですが、エドガー・アラン・ポーの名前からアランと名付けたキャラクターができました。アランが登場するシーンで馬に乗っているのは、この人たちは貴族だから馬くらい乗っているだろうと思ってのことです。

エドガーとアランのキャラクターをつくった後で彼らの家族関係はどうしようかと考えていると、エドガーが現れてこんな家族がいると話してくれたり、メリーベルが登場したりしました。

「ポーの一族」の衣装は「風と共に去りぬ」に触発されてつくったものもあります。「風と共に去りぬ」ではスタイルがどんどん変わっていきますが、1870年代の服が好きだったので、この時代の衣装にしました。「ポーの一族」は1800年代を中心にして、その100年前と100年後のお話です。

「メリーベルと銀のばら」でエドガーがバンパネラにされる場面で気をつけたことは、黒い画面のシーンを多くしたことです。読者を引きつける方法をいつも考えています。最初にイメージが浮かび、そのイメージから頭の中で浮かんだことを表現できるように描いています。

ワシントン大学での講演会のフライヤー「メリーベルと銀のばら」は最初は50ページ×3回=150ページでお話を考えていたのですが、雑誌掲載の都合上、1回につき31ページ、合計93ページにさせられました。お話は何とか詰め込めても、それでは細かな人間の感情は表現できませんでした。ですから、単行本になる時に大幅に加筆しました。雑誌に描いた時に入らなかったネームを保存していたのでできました(ここで、雑誌掲載時と単行本用に加筆した原稿の比較をわかりやすく紹介)。

「小鳥の巣」はヘルマン・ヘッセが好きでドイツに憧れていたから描いたものです。
4色カラーより2色カラーで考える方が楽でした。色を選ぶのは難しいです。」

内山先生「「トーマの心臓」の画面構成において、心情を描くときのコマの切り方が素晴らしいです。横割りの場面が大事なところで使われています。制作上のテクニックがあるので読んでほしいです。」

次に「イグアナの娘」の話になります。萩尾先生は「自分と両親の関係はよくなかったのです。両親は厳しく、勉強が出来る良い子に育てたかったのですが、私はマンガを描きたかった。マンガを描いてる時だけが自由になれました。」

内山先生「マンガに飽きませんか?」
萩尾先生「飽きたりはしませんが、4年に1回くらいアイデアが出なかったりして、もうダメかと思います。悩みながら描いています。苦しんだあと、戻ってきて描いていると幸福な気持ちになります。」
内山先生「ストーリーが膨らむのはどうしてですか?」
萩尾先生「アイデアが育つ時と育たない時があります。アイデアがやってくると自分でもビックリする時があります。」

複製原画絵を描く道具
今回の講演のために、複製原画や実際に使っているペンや道具を持っていかれ、展示されています。この道具の使い方などを説明されました。

質疑応答です。
Q「最後にマンガを描くのが嫌になったのは?」
A「2011年に東北大震災が起こったときです。こんな状態ではマンガは描けないと思いました。しかし、作家は業が深いので原発事故を元にマンガを描きました。描くことを諦めませんでした。」

Q「ボーイズラブの先駆者は萩尾先生ではないでしょうか?」
A「それは竹宮惠子さんだと思います。
私はフランス映画の「寄宿舎」を見ました。「寄宿舎」はボーイズラブの美しくて悲しいお話でしたが、最後に少年が自殺して終わるというところにかわいそうだと腹が立ちました。この少年を生き返らせたくて「トーマの心臓」を描きました。また、「11月のギムナジウム」は掲載誌が少女雑誌だったので女の子の方が良いかと思って女の子でお話をつくったのですが、女の子は不自由だと気付きました。男の子にした方が生き生きとしました。」

質疑応答時の質問者は日本人でした。おそらくシアトル在住のファンの方たち。英語圏の方のツイートでは萩尾先生が日本語で何かおもしろいことをおっしゃると、半分くらいの人が即座に笑うのですが、続いて翻訳の方が翻訳すると、そこで残り半分が笑うという感じだったようです。

講演終了後のサイン会の予定はなかったのですが、会場のファンの皆さんの情熱に押されてサイン会になってしまったそうです。日本人だけでなく、さまざまな国の人がいたそうで、さすがアメリカですね。



シアトル郊外の中学校翌11月3日はシアトル郊外の中学校で講演会が開かれました。珍しく雪が振っていて、紅葉と雪のコラボが素晴らしかったそうです。

シアトル校外の中学校2うって変わって講堂のようなところですね。子どもたちと距離があるようですが表示されている画面が大きいので、大勢いるのでしょうか?「11人いる!」をメインに「イグアナの娘」の話をなさいました。

シアトル校外の中学校3まずは萩尾先生のご紹介。マンガ家になったきっかけ、そのきっかけとなった手塚治虫作品のお話。デビュー作「ルルとミミ」の紹介。「ルルとミミ」はアメリカのお話ですと説明しました。

「11人いる!」のお話。宮沢賢治の「座敷ぼっこ」という民話からお話を考えたこと。

「イグアナの娘」のお話。これは両親との葛藤を描いたものです。萩尾先生が子どもたちに問いかけます。「親はやりたいことを応援してくれますか?」ほぼ全員が応援してくれると手をあげました。先生は思わず拍手したそうです。「両親の反対がマンガを描く力となりました。親が願う娘になりたかったのですが、マンガを描きたい気持ちを優先させました。いつか親はわかってくれると思っていました。」

ほかにもいろいろな作品を映像で紹介しました。

「自分にとって生きている世界は謎が多いので、世界への疑問を掘り下げるとストーリーが浮かびます。」と。

質疑応答では子どもたちがこぞって手をあげてました。萩尾先生の講演会であんなにたくさんの手があがるのは初めて見たそうです。さすが、アメリカの子どもたち。「描く時間はどのくらいですか?「どうやってデビューしたのですか?」などなど。
講演が終わった後も先生に質問していたそうです。「ポケモンを知ってますか?」から「どうやれば絵が上手くなれますか?」.........。モジモジした日本人と違って、積極的でいいですね。


ファンタグラフィック社のサイン会11月4日は「トーマの心臓」「バルバラ異界」の英語版を出版しているファンタグラフィック社のサイン会。

アメリカのコミコン(コミケ)の小さいもののような感じですが、多くの人で賑わっていたようです。ファンタグラフィックスがブースを出すのでサイン会を1時間ほどしてくれないか?と急遽申し込みがあったので快く引き受けた先生。サイン会というようなきちんとしたものではなく、ブースに座ってやってきたお客さんとお話しするという感じだったそうで、まさにコミケ・スタイルですね。自らも出店していたアメリカ人の作家がサインをもらいにきていたり、すでに本を持っているのにサインのためにもう一冊買い求めている人がいたりしたそうです。

icaf2017今回のワシントン大学での講演ですが、ワシントン大学のイベントページに記載されているsponcerのうち、主催はInternational Comic Arts Forum(国際マンガアートフォーラム)で、おそらく後の団体が後援かと思います。Japan Arts Connection Lab(シアトルにある日本文化研究の団体)、 UW Japan Studies Program(ワシントン大学日本研究プログラム)、The Simpson Center for the Humanities(シンプソンセンター。ワシントン大学にある研究所) 、Fantagraphics(「バルバラ異界」「トーマの心臓」英語版を出した出版社)。

現地の方たちのツイートをまとめました。


次はオレゴンです。オレゴンからのレポートはまた。

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